急速に進むリアルオフィスへの回帰...企業に求められる「働く場」改革とは
こうした課題に加え、将来的な課題として金沢大学理工研究域フロンティア工学系でエアロゾル(気体と微粒子の混合物)について研究している瀬戸章文教授は、次のように語る。「人間は微細な表情の変化から相手の心を読み取ろうとするので、コミュニケーションという観点から考えると、マスクを外すことができるような空気清浄の技術開発が求められる」
鍵を握るのは、人の周囲を局所的に浄化する技術
では、オフィスでのコミュニケーションを円滑に行うためには、どのようなことが必要なのか。瀬戸教授によれば主に3つの方向性があるという。1つめは空気中にエアロゾルそのものが出ないようにすること。
つまりはマスクやフェイスガード、パーティションなどを指しており、すでに多くの会社で実践済みだが、これだけではエアロゾル拡散の低減効果には限界がある。またパーティションなどが、エアロゾル濃度の高い空気を「その場にとどまらせることになる」マイナス面もあると、瀬戸教授は言う。
2つめは、空間全体に浮遊するエアロゾルの濃度を低下させるという方法。換気扇や空気清浄機を使ったもので、「ビル管理法に基づいて空気環境の調整に関する基準が満たされているオフィスビルなら、厚生労働省が推奨する基準はクリアしているはず」と、瀬戸教授は言う。一方で、前述の通り「密が発生すると局所的にエアロゾルの濃度が高まることになる」という。
そこで3つめとなる、人が存在する空間の中でも局所的に空気を浄化するという対策に注目が集まっている。「ある人を取り巻く周囲の空気を吸い取り、その周辺をきれいにするというもの」と瀬戸教授は説明する。エアパーティションなどといった製品は以前から存在するが、オフィスの「打ち合わせスペースなどに使われる用途としてはあまり開発されておらず、今後は大いに期待できる技術」だという。
ブース内だけでなく、フロア全体の空気を浄化
この3つめの対策に早くから着目し、打ち合わせスペースなどの空間用に局所的な空気浄化の技術を実用化したのがパナソニック株式会社の「エアリーソリューション」だ。6人掛け程度のテーブルを置いた既存のスペースに設置できるブースタイプで、天井に設置された複数のルーバーから床に向かって空気が流れ出てくる。
「ルーバーから流れる空気は、周辺の空気を巻き込んだ誘引気流とともに、ブース内に下方向の均一なダウンフロー(面気流)を発生させる。このダウンフローが空間に浮遊するエアロゾルを床に落とす」と、同社の空間ソリューション事業推進部で主幹を務める谷口和宏氏は仕組みを説明する。