環境負荷の少ない「グリーン・リチウム」はEVシフトの救世主か
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自動車メーカーや投資家、さらには油田サービス大手のシュルンベルジェまでが、環境負荷の少ないリチウム生産テクノロジーに熱い視線を注ぎ始めている。写真はエナジー・エクプロレーション・テクノロジーズが開発いたDLE装置の試作品。かん水からリチウムを抽出できるという。ラスベガスで9月い開かれた業界カンファレンスで撮影(2021年 ロイター/Ernest Scheyder)
2020年代末までに電気自動車(EV)のバッテリーに使われるリチウムに対するグローバル需要の25%、あるいはそれ以上を賄えるのではないか――自動車メーカーや投資家、さらには油田サービス大手のシュルンベルジェまでが、環境負荷の少ないリチウム生産テクノロジーに熱い視線を注ぎ始めている。
自動車メーカーのステランティスやビル・ゲイツ氏らによる投資ファンド「ブレークスルー・エナジー・ベンチャーズ」などは最近、直接リチウム採取(DLE)と呼ばれる技術を開発するスタートアップ企業に対して数百万ドルの投資を行ったり、供給契約を締結している。この技術を今後1、2年のあいだに商業生産レベルにまで前進させようとする試みだ。
従来、リチウムを得るためには、岩石を採掘するか、塩湖から採取するかん水(塩分を含む天然水)を蒸発させる方法が用いられていたが、DLEであれば利用する土地と地下水が少なくて済む。業界アナリストらは、DLEがEV産業にとってリチウム確保の新たな方法になると考えている。ただし、それにはこの技術が大規模に展開されるようになることが必要だ。
「このテクノロジーの謳い文句は、『もっと多くのグリーン・リチウムを』だ」と語るのは、独自動車大手BMW傘下のベンチャーキャピタルファンドであるBMWiベンチャーズのカスパー・セージ氏。同社は今週、DLE関連スタートアップのライラック・ソリューションズに出資した。
DLE技術を何かにたとえるならば、飲料水から金属類を取り除く家庭用浄水器だ。
この処理では、リチウムの濾過に数時間しかかからず、スペースも平均的な規模の倉庫で済む。対照的に、これまでの手法で用いられていた蒸発池は数百エーカーの規模になることもあり、近隣の帯水層を恒久的に枯渇させ、しかもリチウムを生産するのに数年を要する。
とはいえ、ほとんどのDLE技術は、太陽光を利用する蒸発池に比べて運用コストが高い。また大量の真水と電力が必要になる場合もある。
米大手アルベマールなど既存のリチウム生産企業は、DLE技術の研究は行っているものの、エネルギーと水の消費が大きいという懸念があるため、このテクノロジーが主流になるとしても2020年代終盤になるだろうと判断しているという。
リチウム生産業界に設備を販売するスエズPAで水テクノロジー事業を担当するジョン・ペイシェル氏は、「DLEにとって主要なハードルの1つが、清浄な水へのアクセスだ」と語る。
水圧破砕法で知られるシュルンベルジェは、米ネバダ州でDLEプロジェクトを進めている。同社の「究極目標」は、真水を使わないリチウム生産だという。これは、米エネルギー省が推奨している目標でもあり、同省は地熱利用による最も優れたリチウム生産テクノロジーの開発を対象に賞金400万ドルのコンテストも主催している。
投資家の思惑は
潜在的な障害はあるものの、いわゆる「グリーン・リチウム」に対するウオール街の関心は薄れていない。
スタンダード・リチウムのDLE技術は、アーカンソー州での実験段階にすぎないが、同社の株価は7月のニューヨーク証券取引所上場以来6倍に上昇した。