最新記事

エネルギー

環境負荷の少ない「グリーン・リチウム」はEVシフトの救世主か

2021年10月14日(木)09時43分
直接リチウム採取(DLE)装置

自動車メーカーや投資家、さらには油田サービス大手のシュルンベルジェまでが、環境負荷の少ないリチウム生産テクノロジーに熱い視線を注ぎ始めている。写真はエナジー・エクプロレーション・テクノロジーズが開発いたDLE装置の試作品。かん水からリチウムを抽出できるという。ラスベガスで9月い開かれた業界カンファレンスで撮影(2021年 ロイター/Ernest Scheyder)

2020年代末までに電気自動車(EV)のバッテリーに使われるリチウムに対するグローバル需要の25%、あるいはそれ以上を賄えるのではないか――自動車メーカーや投資家、さらには油田サービス大手のシュルンベルジェまでが、環境負荷の少ないリチウム生産テクノロジーに熱い視線を注ぎ始めている。

自動車メーカーのステランティスやビル・ゲイツ氏らによる投資ファンド「ブレークスルー・エナジー・ベンチャーズ」などは最近、直接リチウム採取(DLE)と呼ばれる技術を開発するスタートアップ企業に対して数百万ドルの投資を行ったり、供給契約を締結している。この技術を今後1、2年のあいだに商業生産レベルにまで前進させようとする試みだ。

従来、リチウムを得るためには、岩石を採掘するか、塩湖から採取するかん水(塩分を含む天然水)を蒸発させる方法が用いられていたが、DLEであれば利用する土地と地下水が少なくて済む。業界アナリストらは、DLEがEV産業にとってリチウム確保の新たな方法になると考えている。ただし、それにはこの技術が大規模に展開されるようになることが必要だ。

「このテクノロジーの謳い文句は、『もっと多くのグリーン・リチウムを』だ」と語るのは、独自動車大手BMW傘下のベンチャーキャピタルファンドであるBMWiベンチャーズのカスパー・セージ氏。同社は今週、DLE関連スタートアップのライラック・ソリューションズに出資した。

DLE技術を何かにたとえるならば、飲料水から金属類を取り除く家庭用浄水器だ。

この処理では、リチウムの濾過に数時間しかかからず、スペースも平均的な規模の倉庫で済む。対照的に、これまでの手法で用いられていた蒸発池は数百エーカーの規模になることもあり、近隣の帯水層を恒久的に枯渇させ、しかもリチウムを生産するのに数年を要する。

とはいえ、ほとんどのDLE技術は、太陽光を利用する蒸発池に比べて運用コストが高い。また大量の真水と電力が必要になる場合もある。

米大手アルベマールなど既存のリチウム生産企業は、DLE技術の研究は行っているものの、エネルギーと水の消費が大きいという懸念があるため、このテクノロジーが主流になるとしても2020年代終盤になるだろうと判断しているという。

リチウム生産業界に設備を販売するスエズPAで水テクノロジー事業を担当するジョン・ペイシェル氏は、「DLEにとって主要なハードルの1つが、清浄な水へのアクセスだ」と語る。

水圧破砕法で知られるシュルンベルジェは、米ネバダ州でDLEプロジェクトを進めている。同社の「究極目標」は、真水を使わないリチウム生産だという。これは、米エネルギー省が推奨している目標でもあり、同省は地熱利用による最も優れたリチウム生産テクノロジーの開発を対象に賞金400万ドルのコンテストも主催している。

投資家の思惑は

潜在的な障害はあるものの、いわゆる「グリーン・リチウム」に対するウオール街の関心は薄れていない。

スタンダード・リチウムのDLE技術は、アーカンソー州での実験段階にすぎないが、同社の株価は7月のニューヨーク証券取引所上場以来6倍に上昇した。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EUと米、ジョージアのスパイ法案非難 現地では抗議

ビジネス

EXCLUSIVE-グレンコア、英アングロへの買収

ワールド

中国軍機14機が中間線越え、中国軍は「実践上陸訓練

ビジネス

EXCLUSIVE-スイスUBS、資産運用業務見直
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    常圧で、種結晶を使わず、短時間で作りだせる...韓国の研究チームが開発した「第3のダイヤモンド合成法」の意義とは?

  • 2

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロシア空軍基地の被害規模

  • 3

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 4

    「500万ドルの最新鋭レーダー」を爆破...劇的瞬間を…

  • 5

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 6

    ロシア軍の拠点に、ウクライナ軍FPVドローンが突入..…

  • 7

    「TSMC創業者」モリス・チャンが、IBM工場の買収を視…

  • 8

    中国のコモディティ爆買い続く、 最終兵器「人民元切…

  • 9

    「複雑で自由で多様」...日本アニメがこれからも世界…

  • 10

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドローンを「空対空ミサイルで撃墜」の瞬間映像が拡散

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    どの顔が好き? 「パートナーに求める性格」が分かる…

  • 5

    AIパイロットvs人間パイロット...F-16戦闘機で行われ…

  • 6

    日本マンガ、なぜか北米で爆売れ中...背景に「コロナ…

  • 7

    「2枚の衛星画像」が伝える、ドローン攻撃を受けたロ…

  • 8

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 9

    ウクライナ軍ブラッドレー歩兵戦闘車の強力な射撃を…

  • 10

    ロシアの大規模ウクライナ空爆にNATO軍戦闘機が一斉…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 3

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 10

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中