最新記事

ビットコイン

ビットコインで「資産を守れる」は本当? インフレの「経済論戦」から考える

2021年7月14日(水)18時11分
千野剛司(クラーケン・ジャパン代表)

オーストリア学派にとってインフレとは通貨の価値を減少させることで生活費の上昇を招く避けるべき現象です。また、富裕層より貧困層に対して比較的高いレートで暗黙的に課税することと同義であると主張し、非対称的な富の再分配を意味すると批判します。

さらに将来への貯蓄意欲を失わせる一方、ギャンブルや投機を促し、公共・民間セクターにおける倫理観を下げる行為とみています。オーストリア学派にとって、インフレとは、自由な市場経済システムの「強靭な」機能を信用しない政策によってもたらせる現象なのです。

対照的にケインズ学派は、インフレ=有害とは一概には言えないという立場です。下記のように、様々なタイプに分けて功罪を分析しています。

労働供給量の増加(ポジティブ)

生産能力を100%発揮できていない経済には、使われていない労働力やリソースが存在することになります。

すぐにでも働ける労働者が余分に存在することで、労働市場における競争力は激しくなり、雇用側にとっては高い賃金を払ってまで労働者を雇う必要がなくなります。失業率が高い時、賃金は典型的に横ばいであり、賃金によるインフレは起きないことになります。

対照的に、失業率が低い時、労働者への需要は供給を上回り雇用側は高い賃金を払って労働者をひきつけようとします。賃金の上昇によって雇用側はモノ・サービスの価格を上げざるを得なくなり、これがインフレにつながります。

つまり、高い失業率と賃金インフレは真逆の関係(フィリップス曲線)であることになり、高い失業率の対極にあるインフレは悪い存在ではないと考えられます。

総需要の上昇(ポジティブ)

経済を循環するマネーが増えるということは、より多くの支出につながり、モノ・サービスへの需要を増やすことから経済に対してポジティブな影響力をもたします。総需要の上昇は、さらなる生産増につながります。

希少性の高い資産保有者にとってポジティブ・法定通貨の預金者にとってネガティブ

インフレとは通貨の購買力が低下することを意味するので、もし個人が自分の財産を現金の形で持っていたらその価値は下がることになります。対照的に、後編で詳しく説明するように、ビットコインや不動産、金など希少性の高い資産の価値は上がります

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中