最新記事

ビットコイン

ビットコインで「資産を守れる」は本当? インフレの「経済論戦」から考える

2021年7月14日(水)18時11分
千野剛司(クラーケン・ジャパン代表)

債務者にとってポジティブ・債権者にとってネガティブ

インフレは、貸したお金の価値が返済時に減少することを意味するため、債権者にとってネガティブです。逆に債務者にとっては借りたお金の価値が減少するのでポジティブです。

例えば、ボブが銀行から3%金利(年率)で100ドルを借りた後、突然10%のインフレが起きたとします。その時、ボブは借金を7%のディスカウント(値下げ)で返済することになります。

ここで注目なのは、債務者としての政府はインフレを起こす動機があるという点です。なぜなら政府は、債券の形で投資家から借りている債務を増税によって返済すると同時に、その債務の価値をインフレによって減らすことができるからです。

以下の計算式は、政府の債務の対GDP比です(The debt-to-GDP ratio)。政府の債務をその国のGDPで割った値です。


Debt-to-GDP Ratio=Government Debt/Gross Domestic Product

政府債務の対GDP比が低い時には政府の債務返済能力が高く、高い時は債務返済能力が低く、債務不履行になる可能性があることを意味します。

世界銀行の調査によりますと、政府債務の対GDP比が77%を一定期間超え続けたら経済に悪影響を与えるとのことです。

執筆時点において、米国政府債務の対GDP比は107.6%と驚くべき高さになっています。これは、第二次世界大戦のあった1946年に記録した118.9%に近い水準です。

ちなみに1974年の米国の政府債務の対GDP比は31.7%です。政府債務のほとんどがインフレによって消えたことを意味します。

しかし実は、日本の状況ははるかに深刻です。財務省によりますと、2020年、日本の政府債務の対GDP比は237.6%と先進国の中で断トツで「我が国は主要先進国の中で最悪の水準」となっています。

購買力の低下(ネガティブ)

最も分かりやすいインフレの影響は、食や住居など生活必需品の価格が上昇するときに感じられるでしょう。価格高騰を恐れて消費者は生活必需品の大量購入に走り、その結果、価格がさらに上昇して購買力がさらに低下するという悪循環を生み出します。

この場合、社会経済的に恵まれない層が最も打撃を受けることになり、生活スタイルの劇的な変化を強いられることになります。

最悪のシナリオは?

インフレは有害なのか? という問いに対して、ケインズ学派とオーストリア学派の間では答えが異なることをみてきました。しかし、過剰なインフレが経済に悪影響であるという点は誰しも合意するでしょう。

マネー供給量が急速に増加し、価格がひと月50%超も上がるといったコントロール不能なペースでの価格急騰は、ハイパーインフレーションと呼ばれています。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル、ハマスが人質リスト公開するまで停戦開始

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中