テスラ、総工費7700億円超を投じたドイツ「ギガファクトリー」の迷走
7月1日は、電気自動車メーカーのテスラにとって祝うべき日になるはずだった。ドイツの首都ベルリン近郊の落ち着いた街グリューンハイデに、自称「ギガファクトリー」が誕生する予定だったのだ。写真は2020年9月、ギガファクトリーの建設現場をドローンから撮影。提供写真(2021年 ロイター/Hannibal Hanschke)
7月1日は、電気自動車メーカーのテスラにとって祝うべき日になるはずだった。ドイツの首都ベルリン近郊の落ち着いた街グリューンハイデに、自称「ギガファクトリー」が誕生する予定だったのだ。
だが、環境保護団体からの激しい抵抗や煩雑な行政手続き、計画変更により、同社初の欧州工場の製造ラインから最初の完成車が送り出される日がいつになるのか、まったく不透明な状況だ。
テスラはすでに操業開始予定を2021年後半に先送りしている。だが、現地ブランデンブルク州の農業・環境省は、総工費58億ユーロ(69億ドル)の新工場に対して、まだ最終的な承認を与えていない。こうなると、下手をすれば2022年まで操業開始がずれ込む可能性も排除できなくなる。
何が問題なのか?
状況は込み入っている。
大富豪イーロン・マスク氏率いるテスラが「ギガファクトリー」の建設計画を発表したのは、2019年末だ。
だが建設予定地の一部は飲料水源の保護地域に重なり、自然保護区とも接しているため、地元住民や環境保護団体から激しい反対にあっている。
昨年はドイツ自然保護連盟(NABU)が、森林伐採によりヘビの稀少な在来種の冬眠が妨げられるリスクを指摘。これを受けて、テスラは伐採を一時中止せざるを得なかった。
このヘビが救出されたことでテスラはようやく伐採を再開することができたが、環境保護を理由として現場での作業を阻止する試みは、他にも数多く見られる。
建設現場から約9キロの場所で暮らすマヌエラ・ホイヤー氏は、地元での建設反対運動に参加する1人として「工場に必要なインフラや(従業員の)住宅を建設するために、数千ヘクタールもの森林が伐採されることになる」と語る。「飲料水源保護地域にこうした工場を建てることは、まさに環境に対する犯罪だ」
ホイヤー氏のコメントからも分かるように、ウィンドファーム(集合型風力発電所)など再生可能エネルギー関連プロジェクトはドイツ全土で、地元の生態系への影響を心配する住民からの反発を受けている。
反対運動だけが問題なのか?
そうとも言えない。
テスラにとっては、煩雑な行政手続きも頭痛の種だ。テスラの実践主義的なアプローチとドイツの悪名高い官僚主義は、相性が悪い。
これまでテスラは暫定的な建設許可に基づき、4340万ユーロで購入した約300ヘクタールの土地に、工場として用いる広大な建物・構造物をすでに建築している。
だが、ブランデンブルク州農業・環境省からの最終許可が下りなければ、操業を開始することはできない。
同省は以前、最終許可の時期は明らかにできないと述べているが、これまで同州で暫定許可を得たプロジェクトは、いずれも結局は最終許可を得ている。
それでも環境保護団体は、操業開始の阻止を諦めようとはしていない。
先週、現地の環境保護団体グリューネリーガとNABUは「ギガファクトリー」用地に関する暫定建設許可の撤回に向けて、国内裁判所に差止命令を求める訴えを起こした。