最新記事

環境

テスラ、総工費7700億円超を投じたドイツ「ギガファクトリー」の迷走

2021年6月28日(月)13時01分

マスク氏は最近では5月にグリューンハイデを訪れており、「官僚主義が薄れれば、事態は改善されると考えている」と述べた。8カ月前に「ドイツは最高だ」と熱を込めて語ったときに比べると、明らかにトーンダウンしている。

バッテリー用セルの生産も

テスラの工場建設計画は、バッテリー用セル製造ラインの追加を反映させるため、6月初めに全面的な再申請を余儀なくされ、貴重な数カ月を失ってしまった。

グリューンハイデ工場は部品製造、完成車の組立てを担う複数の部門で構成されており、プレス、鋳造、車体製造といったラインが含まれている。

また、水再処理施設、構内消防隊、部品その他物資の輸送効率を改善するための集積所なども含まれている。計画によれば、敷地内の電力需要は地元の再生可能エネルギー源で賄われるとされている。

だが、バッテリー用セル製造を追加したことにより、テスラは申請全体を修正・再提出する必要に迫られた。最新の申請内容によれば、同工場では年間合計50ギガワット時(GWh)に相当する5億セルを生産する能力を持つことになる。

これは、ライバルのフォルクスワーゲンが、約300キロ西にある本社に近いザルツギッターで計画している40GWh相当の生産施設を上回る規模だ。

マスク氏以外に支持する声は?

ある。

テスラの動きは、高い失業率と大規模工場の誘致の難航という悩みを抱える旧東ドイツ地域にとって、大きな追い風だと考えられている。

フル稼働の状態に至れば、テスラが「世界で最も先進的な電気自動車の大規模生産プラント」と称する同工場は、1万2000人以上の雇用を生み出し、年間最大50万台を生産すると予想されている。

グリューンハイデに隣接するエルクナーで活動する緑の党党員のラルフ・シュミレウスキー氏は「私たちはクリーン・モビリティ(排出物ゼロの交通・移動手段)へのシフトを支持しているし、その実現に必要な自動車はどこかで製造されなければならない」と語る。

シュミレウスキー氏によれば、何とかして就職したいと願う若い世代は構造的に弱い同地域を離れるようになっており、テスラの計画はこうした人口動態面での問題にも対処するものだという。

「将来の展望が生まれ、地元を去る必要がなくなっている」と同氏は語る。

今後の展開は?

一般市民は7月中旬まで、グリューンハイデ市役所で、設計図や図表、計算式を含め約1万1000ページに及ぶテスラの申請書類を閲覧できる。開示されるのはこれで3度目だ。

開示プロセスの一環として、8月16日までは誰でも異議申立てを提出できる。その後ブランデンブルク州農業・環境省は、9月13日に公聴会を開催するか否かを決定する。

前回、2020年に申請書類が開示されたときは、400件以上の異議申立てが出された。

その後の展開については明確なスケジュールはない。いずれかの時点で同省は最終許可を与えるとみられるが、その時期は何とも予想がつかない。

(Nadine Schimroszik記者、Christoph Steitz記者、翻訳:エァクレーレン)

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2021トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます


【話題の記事】
・誤って1日に2度ワクチンを打たれた男性が危篤状態に
・インド、新たな変異株「デルタプラス」確認 感染力さらに強く
・世界の引っ越したい国人気ランキング、日本は2位、1位は...


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

メタ、反トラスト法訴訟の和解持ち込みへトランプ氏に

ビジネス

カナダ首相、米関税に対抗措置講じると表明 3日にも

ビジネス

米、中国からの小包関税免除廃止 トランプ氏が大統領

ワールド

トランプ氏支持率2期目で最低の43%、関税や情報管
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中