最新記事

環境

脱炭素目指す中国 課題は再生エネより「世界最大規模」電力網の刷新

2021年5月23日(日)11時01分
中国の風力・太陽光エネルギー発電所に設置された送電線と風力タービン

中国は2020年代中に二酸化炭素排出量の増加に歯止めをかけ、再生可能エネルギーに軸足を移すことを公約している。当局者やアナリストらによれば、その公約の達成に向けて最大の急務の1つとなっているのが、世界最大規模となっている同国電力網の刷新だ。写真は国家電網の風力・太陽光エネルギー発電所に設置された送電線と風力タービン。2016年3月18日、河北省の張家口で撮影(2021年 ロイター/Jason Lee)

中国は2020年代中に二酸化炭素排出量の増加に歯止めをかけ、再生可能エネルギーに軸足を移すことを公約している。当局者やアナリストらによれば、その公約の達成に向けて最大の急務の1つとなっているのが、世界最大規模となっている同国電力網の刷新だ。

2020年に中国政府は、2030年までに炭素排出量を減少に転じさせ、2060年までに実質ゼロ(カーボン・ニュートラル)とすることを突然発表した。研究者らによると、これが実現すれば、今日までの気候変動に関する取り組みの中でも、予想される地球温暖化を防ぐ上で最も大きな効果を生む可能性があるという。

だがアナリストらは、太陽光発電所や風力発電所の新設といった簡単な話では済まないと考えている。こうした「グリーンエネルギー」を遠隔地の消費者へ送電するシステムを刷新するには、新規の発電所建設に比べて5倍のコストが必要になる可能性がある。テクノロジーの急速な進歩も必要だ。

「目標達成に向けた課題が話題になると、ほとんどの人が電力網に注目する」。こう語るのは、ロンドン大学経済政治学部(LSE)で中国の気候変動・エネルギー政策を専門に研究するチュンピン・シー氏。「それが、この長旅の最初の1歩になる」

世界最大の公益事業者であり、中国国内の電力網の75%を運営する国家電網。同社のマオ・ウェイミン前会長は昨年10月に行った講演の中で、国内電力網への投資とその他関連コストは、今後5年間で6兆元(8960億ドル)を超えるとの試算を示した。

中国は発電量、電力消費量、二酸化炭素排出量とも世界最大だが、総発電容量に占める再生可能エネルギーの比率を、現在の42%から2025年までに50%以上に高める方針を発表している。

この方針の軸になるのが、現在世界最大の消費者となっている石炭から、太陽光・風力エネルギーに移行することだ。中国政府は、太陽光・風力発電の容量を、現在の535ギガワット(GW)から2030年までに1200GWへと2倍以上に拡大する計画を立てている。

中国で石炭火力発電は、継続的な稼働が可能で発電単価が安い「ベースロード電源」となっている。これを、気象条件によって変動する可能性のある再生可能エネルギーへとこれほど急激に移行すれば、中国の電力網に混乱が生じる可能性があると当局者は語る。

国家電網で配電部門を担当するシニアマネジャーは、 ロイターの取材に対し、安定した運用を維持するという観点では、電力網に接続できる再生可能エネルギー発電所の数は、すでに「上限に達して」いると語った。この担当者は、メディアの取材に応じる立場ではないとして匿名を希望している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

フィンランドも対人地雷禁止条約離脱へ、ロシアの脅威

ワールド

米USTR、インドの貿易障壁に懸念 輸入要件「煩雑

ワールド

米議会上院の調査小委員会、メタの中国市場参入問題を

ワールド

米関税措置、WTO協定との整合性に懸念=外務省幹部
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中