最新記事

企業倫理

企業が今年注力するべきCSRの4大トレンド

CSR TRENDS IN 2021

2021年3月30日(火)17時00分
スーザン・マクファーソン(マクファーソン・ストラテジーズ創業者兼CEO)

従業員重視の姿勢

コロナ禍で浮き彫りになった構造的問題の1つは、誰もが等しく繁栄の恩恵に浴せているわけではないという現実だ。女性、とりわけ有色人種の女性はコロナ不況による失業に見舞われやすく、育児や介護に携わっている従業員への支援もとうてい十分とは言い難い。

しかし、21年には「ようやく経済・資本システムにおける『人間』の重要性が認識され始めるだろう」と、サステナビリティー・CSRアドバイザーのデーブ・スタンギスは予測する。企業の人事戦略では、従業員の健康、安全、幸福度への配慮が重要な要素になると指摘するのは、半導体大手インテルのCSR責任者であるスザンヌ・ファレンダーだ。

瞑想アプリの「ヘッドスペース」のようなテクノロジーを導入して従業員のメンタルヘルス向上を支援している企業は多い。だが、そうした取り組みを実効性あるものにするためには、育児・介護休暇、十分な賃金の支払い、職場の安全性確保などに本腰を入れることが不可欠だ。

ビジネスリーダーや社会変革を目指すリーダーたちが21年2月に署名した「母親のためのマーシャルプラン」は、家庭でケアの役割を担う女性たちに経済的に報いようという動きの1つと言える(この名称は、第2次大戦後にアメリカが欧州経済復興のために行った巨額の援助計画マーシャルプランにちなんだもの)。

今後は「透明性が高く人間中心のリーダーシップが重んじられるようになる」と、テクノロジー大手デル・テクノロジーズのジェニファー・デービス上級副社長は指摘する。その結果、コロナ禍により仕事の在り方が変わるなかで「働き方の柔軟性に関する考え方も変わる」という。

インパクトの大きい活動

21年には、自社が大きなインパクトを生み出せる領域での社会貢献活動に力を入れる企業が増えると予想される。

テクノロジー大手ヒューレット・パッカード(HP)のグローバル・ソーシャルインパクト責任者を務めるミシェル・マレイキによれば、同社が重視する領域の1つが富裕層と貧困層のデジタル格差だ。同社はコロナ禍でダメージを受けた地域コミュニティーへの1000万ドル以上の支援に加えて、デジタル格差を解消するために教育機関と協力して、黒人、先住民、中南米系の子供たちと教員への支援も行っている。

自社に直接関係がある社会問題に取り組んでいる企業としては、動物用医薬品メーカーのゾエティスも挙げられる。同社では獣医師のメンタルヘルスを社会貢献活動の中心テーマに据えていると、サステナビリティー責任者のジャネット・フェラン・アストルガは言う。具体的には、動物のケアに携わる人たちを支援する団体に寄付を行っている。

◇ ◇ ◇


コロナ禍の中で企業が社会貢献を積極的に実践してきたことには、確かに勇気づけられる。しかし、まだ十分には程遠い。企業が自社の持つ力を生かして社内と社会の公平性を高めようと努めなければ、やがて元の状態に逆戻りしてしまうだろう。

企業が社会貢献を通じて「人々の最も切実なニーズ」に応え、「全ての人に長期にわたり恩恵をもたらす」状況をつくり出すように、社会の共通認識を改めるべき時期に来ていると、サステナビリティー関連のコンサルティングなどを行う非営利団体BSRのアーロン・クレーマーCEO兼プレジデントは言う。

社会をよくするためにビジネス界の力を最大限引き出すには、それは避けて通れないことに思える。

20250225issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月25日号(2月18日発売)は「ウクライナが停戦する日」特集。プーチンとゼレンスキーがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争は本当に終わるのか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必…
  • 9
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中