メーカーとサプライヤーの下剋上 カンバン方式に甘えた自動車業界、半導体不足に泣く
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半導体の供給不足が長期化する中、自動車メーカーが厳しい選択を迫られている。写真はフォルクスワーゲンの工場。2020年4月、ドイツ・ウォルフスブルクで代表撮影(2021年 ロイター)
半導体の供給不足が長期化する中、自動車メーカーが厳しい選択を迫られている。供給に応じて出来上がりをすべて買い上げるようにするか、普段から在庫を積み増すか、あるいは半導体メーカーが自動車向けよりも利益のある先端技術の半導体に専念する中で、動きが取れず指をくわえて見ている状態になるかだ。
ドイツのフォルクスワーゲン(VW)や米フォード、ゼネラル・モーターズ(GM)などの大手はこぞって減産を強いられている。背景には、スマートフォンのような消費者家電のメーカーが半導体供給を「のみ込んで」いることがある。スマホメーカーは収益率が大きい高性能製品を買ってくれるため、半導体業界にとっては優先したい顧客だ。
自動車業界というものは何十年もカンバン方式で、ぎりぎりの量の部品をぎりぎりのタイミングで供給させることに甘え切ってきた。そうした自動車業界はもはや、半導体業界を意のままに従わせることができない。今回の半導体不足は、こうした2つの業界の食い違いをさらけ出した。
コンサルト会社マッキンゼーのパートナー、オンドレイ・バーカキー氏は「自動車業界はサプライチェーン全体が車の周りに集まる状態にすっかり慣れてきた」と指摘する。半導体メーカーが実際には違う選択肢を持っていることが見過ごされてきたという。
自動車メーカーは現在半導体不足に対応するため、半導体増産に向けて工場建設の補助金を出すよう政府に働き掛けている。
ドイツでは、VWが半導体サプライヤーを正面切って批判した。VWは昨年4月の段階で、サプライヤー側に同年後半には需要が強く回復すると警告していた、と主張する。当時は新型コロナ禍で世界の大半の自動車工場が操業を停止していたころだ。
しかし、生産台数で世界2位のVWからの批判も、半導体メーカーにはほとんど効果がない。半導体メーカーにしてみれば、自動車メーカーこそ、販売が停滞するとすぐに注文をキャンセルし、販売が上向いてくると新たな生産への投資をすぐに要求してくる身勝手な存在だ。
欧州のある半導体メーカー筋は「昨年は、われわれは人員削減と、操業休止状態を維持するためのコスト負担を強いられた。自動車メーカーがわれわれに新たな生産能力への投資を求めてくるなら、次の需要低迷期に一体、誰が遊休設備のコストを払うのか教えてもらいたい」と話した。