メーカーとサプライヤーの下剋上 カンバン方式に甘えた自動車業界、半導体不足に泣く
自動車向けは旧世代半導体
ミラバウドのハイテクアナリスト、ニール・キャンプリング氏によると、世界の自動車業界の年間の半導体支出は約400億ドル(4兆1600億円)で、半導体使用の約10分の1に相当するが、米アップルの半導体支出はiPhone(アイフォーン)向けだけでこれを上回る。
おまけに自動車向け半導体は、古い受託工場で委託生産されるマイクロコントローラーといった基礎的な製品の場合が多い。半導体メーカーが積極的に投資したいような先端技術の製品とはかけ離れている。
ストラテジー・アナリティクスのアシフ・アンワル氏はサプライヤーの言い分をこう紹介する。「こんな製品を作り続けていても他ではまったく使えない。そんな製品をソニーはプレイステーション5には使おうとしないし、アップルも次世代型アイフォーンには使おうとしない」。
そんな半導体業界は今年1月、ドイツ自動車業界のパニック気味な反応に驚かされた。ドイツの自動車メーカーは同国のアルトマイヤー経済相に泣きついて台湾当局に書簡を送らせ、当局が台湾半導体メーカー各社に供給増加を要請するようドイツ政府から働き掛けさせたのだ。
ドイツ向けの増産は見込まれていなかったのだ。ドイツのある業界筋は米国の自動車メーカーのほうが台湾から半導体を多く得られる可能性があると指摘。背景に米国がアジアで振るう影響力の強さがあると説明するため、米国勢なら台湾沖に少なくとも空母一隻を送り込めるからね、と冗談交じりに話した。
別の欧州半導体メーカー筋は、自分たちがどう操業しているかについて自動車メーカーの理解が足りないと不信感を表明した。「半導体確保で切羽詰まった自動車メーカーから電話が来た。いわく、どうして貴社は増産のために夜間操業をしないのかと言うんだ。われわれが、端(はな)からずっと夜間操業をしていることを連中は分かっていなかった」。
供給不足は長期化
世界の自動車業界への有力半導体サプライヤーであるドイツのインフィニオンや、同国の自動車部品大手ロバート・ボッシュはいずれも年内に新規半導体工場を稼働させる計画。しかし、半導体の供給不足の早期緩和は見込み薄だ。
インフィニオンなど自動車向けに特化したメーカーは一部の生産を台湾積体電路製造(TSMC)といった受託製造大手に外注している。しかしアジアの受託製造業者は生産能力ひっ迫に対応するため、もっと高性能な半導体の生産を優先している。
長期的には半導体メーカーと自動車メーカーの関係は、より緊密になっていくとみられる。EVがもっと普及し、運転支援機能付きや完全自動運転技術の車が開発され、高性能半導体の需要はもっと増えるはずだからだ。
しかし短期的に見ると、半導体の供給不足を解消する応急処置のような策はない。IHSマークイットの推計によると、マイクロコントローラーの供給にかかる日数は26週間と2倍に伸びており、不足がようやく底を打つのは3月になるとみられる。つまり、小型乗用車の100万台分の生産が第1・四半期に危なくなるという。
欧州の半導体業界幹部やアナリストは、供給が需要に追いつくのは今年の遅い時期になるとの見方で一致している。
ストラテジー・アナリティクスのアンワル氏によると、半導体不足問題は雪だるま式に波及している。自動車メーカーが利益率の高い車種の生産を優先するため、一部の生産設備の操業を休止するからだ。結果的に今年の欧州と北米の自動車生産は5-10%落ち込むと予想している。
フランス・イタリア系半導体大手STマイクロエレクトロニクスのジャンマルク・チェリー最高経営責任者(CEO)は最近のゴールドマン・サックス主催イベントで、生産逼迫(ひっぱく)の問題は今年半ばまで自動車業界に影響し続けると指摘。「第2・四半期が終わるころまで、自動車業界は(半導体の)極めて少ない在庫でなんとかやっていかざるを得ないことになる」と語った。
(Douglas Busvine記者、Christoph Steitz記者)
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