株価急落で消えた「日本売りの円安」 円暴騰の舞台裏
3年4カ月ぶりの高水準となる101円台まで円が急騰した9日、金融市場では奇妙な安ど感が広がった。写真は都内で10日撮影(2020年 ロイター/STOYAN NENOV)
3年4カ月ぶりの高水準となる101円台まで円が急騰した9日、金融市場では奇妙な安ど感が広がった。リスクオフ時に「日本売り」の色彩を帯びた円安が発生する可能性が警戒されていたためだ。急激な株安が投機的な円売りポジションを巻き戻させ、旧来通りの円高が進んだが、円を巡る構造が変化する中、懸念はくすぶっている。
株安イコール円高に大きな疑問符
米10年債利回りが過去最低の0.3%台、原油先物は31%安、米株式市場では金融危機以来の緊急取引停止措置となるサーキットブレーカー発動と、目を疑うようなニュースが相次いだ9日から一夜。10日の東京市場では、一時800円超下落した日経平均がプラス圏へ反発、ドルも104円台まで切り返すなど、とりあえず動揺は一服となった。
前日までの円暴騰は、新型コロナウイルスの感染拡大と原油価格の急落が主因とされる。だが、この動きには円相場固有の重要な伏線があった。一時112円台まで進んだ円安だ。
話は2月半ばまでさかのぼる。ウイルス感染者数の増加が株価の重しとなり始め、日経平均が続落し始めたにもかかわらず、ドルはほとんど反応を見せることなく、109円台で一進一退が続いた。下値で国内投資家が買いを入れているとのうわさは出回っていたものの、株安を見事なまでに素通りする円の安定ぶりに、首をかしげる参加者は少なくなかった。
そして2月19日。前日に日経平均が直近高値から900円近い水準まで下げたにもかかわらず、円は夕方からじりじりと下落し始め、翌20日の海外で112円台と10カ月ぶり安値をつける。リーマンショック後の金融緩和環境下でセオリーとなった株安は円高、という円相場の構造に、大きな疑問符がついた瞬間だった。
円キャリー需要減、円買い機運も退潮
その後発表された国際収支などで、2月は国内の年金資金が2兆円超の大規模な外債投資を行ったことが明らかとなっている。しかし、それだけで1日の取引高が89兆円(8710億ドル・国際決済銀行調べ)に達するドル/円を上昇させるのは困難。市場では「リスクオフはもはや円高ではなく、ウイルスの感染拡大や成長率低下といった日本の悪いニュースで、円が売られているのではないか」(トレーダー)との声が飛び交った。