株価急落で消えた「日本売りの円安」 円暴騰の舞台裏
リスクオフの円高に疑念が生じたもうひとつの要因は、円調達のキャリートレードが下火となったことにある。低金利通貨を調達して高金利通貨で運用し、金利収入を狙うキャリートレードを、円と同じくマイナス金利が長期化するユーロで行う動きが海外勢の間で始まったのだ。
そもそも、世界経済の成長を損なうようなニュースが出ると円高になるのは、グローバル投資家が持ち高を圧縮してリスク量を絞り込む過程で、キャリートレードの手じまいで円を買い戻す動きが相次ぐためとされる。つまり、キャリートレードに伴う売りが出ないのなら、買い戻す必要も当然なくなり、それに追走する投機的な円買いの機運も低下する。
実際、ユーロは2月下旬にほぼ3年ぶり安値となる1.07ドル台へ下落した後、世界的な株安が加速すると、買い戻しが一気に活発化。前日海外で1.14ドル台と、2週間半で700ポイント超の上昇を見せた。イタリア全土に移動制限がかかり、欧州の国債や銀行債のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)が急上昇していることなど、お構いなしだ。
「買われるうちが華」
少なくない参加者が「リスク回避の円高」終焉の可能性に賭けていた様子もうかがえる。米商品先物取引委員会(CFTC)がまとめたIMM通貨先物の非商業(投機)部門の取組状況によると、2月25日までの1週間に円は、差し引き5万枚超へ売り越し幅を拡大。日経平均が4カ月ぶり安値を更新する中、円売りポジションは昨年半ば以来の高水準へ膨らんでいたのだ。
しかし、こうした「円相場の構造変化の可能性」をにらんだ円売りは、株安が加速する中で次第に失速。強制的な買い戻しを執行する大量のストップロス注文は、たった1日で円が4円超上昇する土壌を作り、今回はリスク回避が円高につながるセオリーを確認する結果となった。
ドルは前日の海外市場で101.18円と3年半ぶり安値を更新した後、きょうにかけて104円台へ反発した。日銀がレートチェックに動いたとのうわさが出回ったことなどをきっかけに買い戻しが強まった形だが、日本売りの円安が一時現実味を帯びた市場では、相変わらず通貨高を嫌う当局の姿勢に「買われるうちが華なのに」(外銀幹部)と、冷めた声もこぼれる。
新型ウイルスの急拡大という未曽有の事態が、世界経済に与える影響は依然未知数。円相場も見通しづらいが「当面は100円割れを含めて下値警戒を続けたい。5日移動平均線が走る104.70円前後の回復が底入れの最低条件」(シティグループ証券チーフFXストラテジストの高島修氏)になるという。
(編集:石田仁志)
[東京 10日 ロイター]
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