日産、不正報酬の西川社長留任の方向 「火中の栗拾う」後任不在の現状露呈
日産自動車の西川広人社長(写真)は9日の取締役会で、株価連動型報酬の不正受領問題による辞任を強く求められることなく、留任する可能性が高い。写真は7月25日、横浜の日産本社で撮影(2019年 ロイター/Issei Kato)
日産自動車の西川広人社長は9日の取締役会で、株価連動型報酬の不正受領問題による辞任を強く求められることなく、留任する可能性が高い。意図した不正でなく法律違反でもないというのが理由だが、まだ後任が決まらないという事情もにじむ。社員や世間から不正続きの経営陣に対する風当たりが強まる中、西川社長の進退に注目が集まっている。
辞任は「求めない」方向で調整
「経営陣の不正が相次いでいるが、このまま乗り続けていて大丈夫なのだろうか」――。ある日産車のユーザーは先行きへの不安をこぼす。ある日産社員も「ゴーン時代から経営陣との距離は感じていたが、ますます冷めていく。現場が頑張っているのに虚しい」と肩を落とす。
日産は、会社法違反(特別背任)などの罪で起訴された前会長、カルロス・ゴーン被告の不正を防げなかった反省から、6月の定時株主総会で「指名委員会等設置会社」への移行を決定。社外取締役を中心とする指名・報酬・監査の3つの委員会によるガバナンス監視体制が動き出している。
不正報酬受領問題は、この中の監査委員会に4日報告された社内調査の結果から判明した。株価に連動した報酬を受け取る権利「ストック・アプリシエーション・ライト(SAR)」による報酬制度は、ゴーン被告がトップだった旧体制から続く仕組みだ。
ゴーン被告の側近だった前代表取締役のグレッグ・ケリー被告が、今年6月発売の月刊誌「文藝春秋」に掲載されたインタビューで指摘したことで今回の問題は注目された。ケリー被告はSARの報酬額が決まる行使日を変更し、西川氏が不正に4700万円多く受け取っていたと糾弾した。
もっとも、SARによる報酬制度はゴーン体制時代のいわば「負の遺産」(日産幹部)とみられており、日産は制度自体を見直す方針だ。
西川氏は5日、記者団に対し、不正に多く受け取ったことを認めたうえで、不正に得た報酬分を全額返還する意向を示した。一方、行使日変更の指示については否定。ケリー被告に手続きを一任していたため、自身に不正の認識はなかったと釈明した。
最終的な判断は9日の取締役会で決まるが、複数の関係筋によると、「不正の意図がないのに本人を責めるのは酷だ」として、監査委員会は西川氏には辞任を求めない方向で調整している。
西川氏以外にも複数の役員が同様の不正な上乗せによる報酬を得ていたが意図的ではないとして、こちらも処分検討の「対象外」(関係筋の1人)という。