最新記事

ビジネス

日本の絵本が中国でケタ外れに売れる理由 世界が狙う巨大市場にどう切り込んだ?

2019年3月11日(月)15時00分
星野 渉(文化通信社専務取締役) *東洋経済オンラインからの転載

可能性に満ちているように見える中国の出版市場だが、この国ならではのリスクもある。

まず、中国で出版は許可制で、いまも出版は外国資本はおろか地元民間資本にも開放されていない。政府機関が割り当てた「書号(ISBN・国際標準図書番号のこと)」がなければ出版物を発行することはできず、「書号」が割り当てられるのは584社(2017年現在)の国営出版社だけなのだ。

多くの日本の出版社は中国の出版社に版権を売るだけにとどまっており、蒲蒲蘭をはじめとした外資法人や、新経典のような民間出版社も、国営出版社から「書号」を買って出版している。ただし、それでも実質的に出版物の7割は、こうした民間出版社が刊行しているという話もある。

ここ数年、中国政府は出版の輸入より輸出に力を入れている。そのため、国営出版社に対して、版権を1点輸入したら、2点を輸出する「1対2政策」を求めたといわれる。このため、2017年は日本からの版権輸出にも若干ブレーキがかかったという。

中国当局の規制で求められる「忖度」

こうした規制の多くが、法律や政令といった正式な文言として明示されないため、出版関係者に「忖度」を求められるというのも、対応を難しくさせている。

ただ、規制がある中でも、需要のあるコンテンツは市場で広がり続けている。蒲蒲蘭の創業当初から現地責任者を務め、中国で「絵本」文化を広めた立役者とも言える石川郁子氏は、「中国には『規制があれば対策がある』という言葉があります。われわれも絶えず規制を乗り越えながらやってきました」と話す。

実際、蒲蒲蘭は2018年に松岡達英氏の新作『変成了青蛙』(かえるになった)を日本語からの翻訳ではなく最初から中国語の書籍として発売した。もともと松岡氏は、日本でもミリオンセラーになった『ぴょーん』をはじめ、他社も含めると30タイトル以上が刊行される人気作家だが、オリジナルで出すことで、版権輸入より許可されやすいというメリットもある。

海賊版についても、ホームページなどで読者に無許諾版を手に取らないよう啓発する一方で、「絶対に許さない」という姿勢で、摘発への協力や訴訟も辞さないという。まさに、リスクをとって規制や障害をかいくぐりながらビジネスを続けてきた結果が、いまの成長に結びついているということだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 8
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 9
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 10
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中