日本の絵本が中国でケタ外れに売れる理由 世界が狙う巨大市場にどう切り込んだ?
可能性に満ちているように見える中国の出版市場だが、この国ならではのリスクもある。
まず、中国で出版は許可制で、いまも出版は外国資本はおろか地元民間資本にも開放されていない。政府機関が割り当てた「書号(ISBN・国際標準図書番号のこと)」がなければ出版物を発行することはできず、「書号」が割り当てられるのは584社(2017年現在)の国営出版社だけなのだ。
多くの日本の出版社は中国の出版社に版権を売るだけにとどまっており、蒲蒲蘭をはじめとした外資法人や、新経典のような民間出版社も、国営出版社から「書号」を買って出版している。ただし、それでも実質的に出版物の7割は、こうした民間出版社が刊行しているという話もある。
ここ数年、中国政府は出版の輸入より輸出に力を入れている。そのため、国営出版社に対して、版権を1点輸入したら、2点を輸出する「1対2政策」を求めたといわれる。このため、2017年は日本からの版権輸出にも若干ブレーキがかかったという。
中国当局の規制で求められる「忖度」
こうした規制の多くが、法律や政令といった正式な文言として明示されないため、出版関係者に「忖度」を求められるというのも、対応を難しくさせている。
ただ、規制がある中でも、需要のあるコンテンツは市場で広がり続けている。蒲蒲蘭の創業当初から現地責任者を務め、中国で「絵本」文化を広めた立役者とも言える石川郁子氏は、「中国には『規制があれば対策がある』という言葉があります。われわれも絶えず規制を乗り越えながらやってきました」と話す。
実際、蒲蒲蘭は2018年に松岡達英氏の新作『変成了青蛙』(かえるになった)を日本語からの翻訳ではなく最初から中国語の書籍として発売した。もともと松岡氏は、日本でもミリオンセラーになった『ぴょーん』をはじめ、他社も含めると30タイトル以上が刊行される人気作家だが、オリジナルで出すことで、版権輸入より許可されやすいというメリットもある。
海賊版についても、ホームページなどで読者に無許諾版を手に取らないよう啓発する一方で、「絶対に許さない」という姿勢で、摘発への協力や訴訟も辞さないという。まさに、リスクをとって規制や障害をかいくぐりながらビジネスを続けてきた結果が、いまの成長に結びついているということだ。