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日本の絵本が中国でケタ外れに売れる理由 世界が狙う巨大市場にどう切り込んだ?

2019年3月11日(月)15時00分
星野 渉(文化通信社専務取締役) *東洋経済オンラインからの転載

このうち、ポプラ社が2004年に北京で設立した蒲蒲蘭は、設立以来10年ほどは赤字続きだったが、ここ数年、絵本の市場が急拡大したことで売上高を急速に伸ばし、2016年には年間売上高が1億元(約17億円)を超えたという。

ポプラ社・長谷川均社長は冗談交じりで「蒲蒲蘭はここ数年で日本のポプラ社の売り上げを抜くだろう」と、中国での成長に目を見張る。宮西達也氏の「ティラノサウルスシリーズ」は累計800万部、10年以上前に刊行された「くまくんのあかちゃんえほん」(ささき ようこ)に至っては累計1000万部に達する売れ行きだ。それほど、このところの中国児童書市場の拡大は著しい。

児童書は2ケタ成長、書籍市場の4分の1占める

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北京にある蒲蒲蘭絵本館。書籍販売だけでなく出版物の卸業も営む(筆者撮影)


中国国務院の発表によると、2017年の中国書籍市場は約803億元(約1兆3000億円)だが、児童書はこのところ毎年2ケタの成長を続け、書籍市場でジャンル中最も大きい約25%を占めるに至っている。

近年の著しい経済成長で経済力をつけた中間層が沿岸部から徐々に内陸部にも拡大し、「一人っ子政策」への反省などから子どもの情操教育に熱心な親が増えていることが、児童書市場拡大の直接的な要因といわれている。

しかも、中国では紙の書籍市場が伸びる一方で、音声配信などを含む電子書籍市場も拡大。書籍小売でも当当網や京東といった大手EC企業の書籍ネット販売が急成長するのと同時に、複合型の新業態書店が2017年だけで1000店舗開店したという。「人口が多いので、経済成長とともにすべての分野が伸びている」と、中国大手出版グループの関係者は説明する。

しかし、ポプラ社が北京に蒲蒲蘭を設立した当時の中国には、子ども向けの創作絵本の市場はほとんどなく、「絵本」という言葉すら存在しなかったという。そんな状況下で蒲蒲蘭は、当時外国資本に開放されたばかりの出版物小売業の免許を取得し、北京で絵本専門店「蒲蒲欄絵本館」を開設。続いて出版物卸業の免許も取得し、日本や欧米の翻訳作品を中心に絵本を刊行してきた。

いまでは中国各地に同社とは"ゆかり"のない「絵本館」を冠した店舗や施設、建物などが数千カ所もあるという。「絵本」という言葉は市民権を獲得し、多くの現地出版社も絵本に参入している。

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