最新記事

教育

忍び寄る「大学倒産」危機 2000年以降すでに14校が倒産している

2018年12月3日(月)10時20分
松野 弘(社会学者、大学未来総合研究所所長)

中学校や高等学校の教員とは異なり、大学教授は教育活動と研究活動の両方を行い、自身の研究成果を教育に反映させなければならない。これについては筆者が『大学教授の資格』(NTT出版)で詳しく記しているので、興味をもたれた読者の皆さんは参考にしていただきたい。

教員組織を「量」だけでなく「質」の面でも充実させるためには、優秀な大学教授を集めなければならない。そのためには給与等の待遇面ももちろんだが、彼らが十分に研究活動をできるだけの研究環境も整備しなければならない。

というのは、大学を企業に例えれば、大学の主力商品は「大学教員」だからである。この主力商品をいかに、大学受験市場において売り込み、自らの大学の競争的優位性を確保していくかが、大学の市場価値を高めていくことにつながるのである。

大学が無分別に学生数を増やせない理由

このように大学教授などの人材、研究環境、教育設備等の教育資源を確保し、維持していくためには、当然ながら、相当なコスト(人件費・教育/研究費等)が発生する。このようなコストをかけて大学を健全に維持、発展させるためには、それに見合う収益が必要となる。

その主なものが授業料だ。学生の数が増えれば、当然授業料収入も比例して増えるが、無分別に学生数を増やすわけにはいかない。教員組織や校舎、研究施設や教育施設には受け入れ限度があるからだ。大学設置基準の第十八条3項が「大学は、教育にふさわしい環境の確保のため、在学する学生の数を収容定員に基づき適正に管理するものとする」と定めている通りである。

こうして、大学は教育インフラや教員組織を維持するためのコストと受け入れ可能な学生数のバランスをもとに、入学定員数を定めている。すなわち、学生数が入学定員数を割り込むと、教員組織や施設、設備を維持することがいずれ困難になることが予想される。

つまり、この定員充足率は、大学の経営健全度を測るためのバロメーターとなるのである。すでに述べたように、日本の大学は学生納付金(=授業料)への依存率が高いので、大学の受験者数や入学者数が減少してくると、大学経営に大きなダメ-ジを与えることになる。

もっといえば、文部科学省が私立大学への補助金額の増減を決めているので(実際は日本私立学校振興・共済財団が各大学に学生数・教員数等を勘案して配分している)、文部科学省に目を付けられないよう大学設置基準をきちんと守るべく、私立大学も必死である。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

野村HDの前期純利益、約2倍で過去最高 北村CFO

ワールド

中国、米関税の影響大きい企業と労働者を支援 共産党

ビジネス

スイス経済、世界的リスクの高まりに圧迫される公算大

ビジネス

円債、入れ替え中心で残高横ばい 国内株はリスク削減
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは?【最新研究】
  • 2
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 3
    日本の10代女子の多くが「子どもは欲しくない」と考えるのはなぜか
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 6
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 7
    【クイズ】世界で最もヒットした「日本のアニメ映画…
  • 8
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    欧州をなじった口でインドを絶賛...バンスの頭には中…
  • 1
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 2
    しゃがんだ瞬間...「えっ全部見えてる?」ジムで遭遇した「透けレギンス」投稿にネット騒然
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    【クイズ】売上高が世界1位の「半導体ベンダー」はど…
  • 9
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 10
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 9
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 10
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中