世界を動かすエコノミストたちの成績表、最低評価はあの人...
ジョセフ・スティグリッツ
経済学者
Joseph Stiglitz
クリントン米政権で長らく大統領経済諮問委員会のトップを務め、世界銀行でも副総裁やチーフエコノミストを歴任するなど、スティグリッツは公的な経済機関での勤務経験が長い。といっても、権力にすり寄るタイプの経済学者ではない。むしろ近年は、一部の国にのみ利益をもたらすグローバリズムを拡散する経済機関を徹底的に攻撃している。
その筆頭はIMF(国際通貨基金)。スティグリッツがこの組織を「一流大学出身の三流エコノミストが集まる組織」とこき下ろすのは、IMFの過度の市場原理主義に我慢がならないから。経済危機の多くが途上国で起きているのに、先進国に重点を置く組織運営も気にくわないようだ。
情報の不完全性と非対称性を説き、市場経済の欠陥を指摘した論文が01年のノーベル経済学賞を受賞した彼の立脚点は反市場原理主義。その考えは、豊かであるはずのアメリカにも中学校に行けない貧しい国民がいる実情を知った幼少時代に培われた。
「アメリカ・ファースト」を唱えるトランプ政権をならず者国家と糾弾するのも、うなずける。
マリオ・ドラギ
ECB総裁
Mario Draghi
あまり知られていないが、ECB(欧州中央銀行)の最大の目標はユーロ圏の物価安定。その実現のため、ECBには強い独立性と透明性が求められる。ユーロ加盟19カ国政府の思惑にいちいち左右されたり加盟国の経済政策に直接干渉せず、積極的に情報公開すべきと考えられているのだ。しかし、ECBには独立性も透明性もないとの批判は創設期からあり、後を絶たない。
非難が最も高まったのは2010年のユーロ危機。当時のジャンクロード・トリシェ総裁と後任に内定していたドラギがスペインとイタリアの政府へ送った「秘密の手紙」がリークされ、イタリアに労働市場改革などを要求していたことがわかった。要は「経済支援が欲しければ俺たちの言うことを聞け」ということだ。
経済危機に陥ったギリシャの救済をめぐるEU、IMF(国際通貨基金)との「トロイカ体制」も批判された。政治から独立するはずのECBが堂々と政治談議をし、一国の政府のごとく振る舞うことがやり玉にあげられた。
就任当時、その名前から「経済危機を救うスーパーマリオ」と期待されたドラギ。ヨーロッパは今のところ危機の再発を免れている。でも、「みんなに愛されるマリオ」には程遠い。
黒田東彦
日本銀行総裁
Haruhiko Kuroda
2013年の就任以来、次々と斬新な手法で世界を驚かせてきた日本銀行総裁の黒田。デフレからの脱却を錦の御旗に掲げる安倍政権の政策を実現するべく、「異次元の金融緩和」を続ける。
「黒田バズーカ」と呼ばれる金融緩和策で市場にはお金があふれ返っているが、それでも市場に出回る量が足りないとして、民間銀行が日銀に預けるお金に「手数料」をかけるマイナス金利まで導入。市場関係者もあきれるほどの量的緩和を継続する目的は、2%の物価上昇だ。それでも、黒田自身が「まだ遠い」と認めるように、物価目標は達成されていない。
政権との二人三脚ぶりは、もはや中央銀行の独立性という規律を度外視したようにも見えるが、「ルール破り」以上に恐ろしいのが日銀による「借金」のため込みだ。物価上昇のために政府が国債を発行し、それを中央銀行が買い取る手法は欧米でも見られる。だが、最近の日銀は群を抜いている。アベノミクス発動以降、政府が発行する国債の約4割を日銀が保有するに至り、さらに国債を含む債券全体の保有額はGDPの9割と、米FRBの4倍だ。
「バズーカ」で被弾するのが国民でなければいいが......。