最新記事

近未来予測

コストゼロ&シェアの時代のマネタイズ戦略

2015年11月19日(木)16時20分
長沼博之(イノベーションリサーチャー、経営コンサルタント、Social Design Newsファウンダー)

 例えば、文芸やアート、歴史などは、まさに一回性の価値に担保されている領域だ。小説に書かれている物語、そして、絵画に描かれる対象は、もう二度と起こりえない、描き得ない輝きを価値の背景に宿している。

 P.F.ドラッカーは、これを「分析から知覚へ」という表現で語っている。この「知覚領域」こそがこれからの重要な価値になることを予言していた。知覚というのは、感覚ということであるが、より厳密に言うならば、「その瞬間、一度きりの命の実感」とでも言えようか。

 ホテルからAirbnbへ。これも「再現性から一回性へ」と言い換えていい。いつも変わらぬ機能性を提供してくれるビジネスホテルから、そこにしかない部屋、一度しかないホストとの出会いに価値を置くわけである。

 最近Airbnbでは、料理や観光、スポーツなどのアクティビティの予約が可能になった。宿泊場所を提供するホストが、自身の得意な領域で、宿泊者にサービスを提供できる。これによって、Airbnbは21世紀の「働くプラットフォーム」へと進化を遂げた。しかしこれも、その場所、そのホストとの"一回性の価値"が背景に宿っていることは言うまでもない。

 重ねるが、再現性のあるもの、コピーできるものの価値は驚くほど速く低下していく。よってビジネスにおいては、この一回性に担保された価値を、どのように事業の中でデザインするかが重要になっていくわけである。

 最もテクノロジーの影響を受けやすい音楽業界ではすでに、アーティストは、曲の販売というよりもライブで稼ぐ時代になっている。それは、ファンとの「関係性」とライブ会場という「場」に根ざした一回性によってマネタイズされる時代へと変化したことを意味する。

 ビジネスは、普遍性と再現性に根ざした「機能性」でマネタイズする時代から、関係性と場所性に根ざした「一回性」によってマネタイズする時代へと徐々に舵を切ろうとしているのだ。

<*下の画像をクリックするとAmazonのサイトに繋がります>


『ビジネスモデル2025』
 長沼博之 著
 ソシム

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中