フォルクスワーゲン前CEOが築いた「畏怖と尊敬」の独裁ビジネス
ウィンターコルン氏は同じ米国出張で、他社のモデルが使用して人気を得ていた赤色をVWが提供していないことに不満をあらわにした。同氏はブラウニング氏が去った翌年、この件について次のように述べた。「彼らは私のところに乗り込んで、『ウィンターコルンさん、私たちはパサートを改良しなければならない』と言うべきだった」
しかし、同氏のこうしたやり方に立ち向かうことができた幹部はほとんどいなかったと、VWグループの複数の元マネジャーは明かした。
距離と畏怖と尊敬の念
元幹部はロイターに対し、「常に距離と畏怖と尊敬の念があった。彼(ウィンターコルン氏)に会うときは心臓がどきどきした」とし、具体例は挙げなかったものの、「悪い知らせを伝えるなら、大声でなじられ、かなり屈辱的で不快な時間となった」と話した。
ウィンターコルン氏は公の場でさえ、かなり上層のスタッフにあれこれ指図していた。4年前のフランクフルト自動車ショーで撮影されたビデオには、同氏のやり方を垣間見ることができる。ユーチューブに投稿された同ビデオの中で、ダークスーツ姿のマネジャーたちに囲まれた同氏は、韓国メーカー、現代自動車の新モデルを念入りにチェックしている。
同氏は車の周りを歩きながら、後部ドアのロック機構を調べ、運転席に乗り込んだ。そして順番に内装品とハンドルを調整すると、何か不愉快なことを見つけた。VWやBMWのモデルとは異なり、この車は音を立てなかった。
「ビショフ」と自社のデザイン責任者を、敬称もつけずに名字で呼びつけると、「何も音がしないぞ」とハンドルを指し示し、不機嫌そうに語った。
ウィンターコルン氏と一緒に働いた経験について、ビショフ氏はロイターに次のように述べた。
「ウィンターコルン氏はいつも最善策を求め、最高のゴールへと従業員を駆り立てていた。だが、彼のことを、非情で威圧的なリーダーだと表現するのは間違いだろう。確かに、物事が間違った方向にいったときはひどく怒ったし、自身の気の短さはどうにもならなかったようだ。それでも、人の痛みが分かる極めて人間的な一面にも私は触れてきた」
(原文:Andreas Cremer、Tom Bergin 翻訳:伊藤典子 編集:下郡美紀)