最新記事

ワイン

そして中国はボルドーを目指す

世界有数の消費国から世界有数の生産国へ。巨大市場を背景に中国産ワインの攻勢が始まる

2013年10月2日(水)16時57分
エレカ・ワッツ

世界を狙う? 昨年の国際ワイン・スピリッツ見本市に登場した中国産ワイン Bobby Yip-Reuters

 太陽光パネルのダンピング問題でもめていた中国とEUが、7月下旬に和解した。これで中国はヨーロッパ産ワインに対するダンピング調査を中止するだろう。

 EUは6月、EU加盟国に輸入されている中国製太陽光パネルにダンピングの疑いがあるとして反ダンピング関税を課すと発表。一方の中国商務省は報復措置として、中国市場向けのヨーロッパ産ワインに対するダンピング調査を開始していた。

 今回の和解により、ワインとポリシリコン(太陽光パネルの材料)については中国政府は調査手続きを凍結するとみられる。
中国が太陽光パネルの「意趣返し」にワインを選んだのは、ワインがヨーロッパを象徴する農産品だからだが、ほかにも訳がある。中国政府はワインをヨーロッパからの輸入に頼るだけでなく、国内のワイン産業を育成しようとしているのだ。

 中国のブドウ園のほとんどは、チベットや新疆ウイグル自治区など西部に位置している。乾燥した気候、海抜の高さ、砂の多い土壌、降水量の少なさなどがブドウ栽培に適しているからだ。加えてこの数年間は、西部以外の地域にもブドウ園が出現している。

 地方当局はブドウ栽培に理想的な環境の地域を開発する好機に飛び付いている。その一例が四川省の小金県をフランスのボルドーに匹敵するブドウ園に育てる計画だ。作付面積は既に1000ヘクタールに達し、地元政府は20年までに6700ヘクタールに拡大する構えだ。

 この計画を可能にするために当局が利用しているのが「農家が土地の使用権を企業に移転」できるとする最近の土地改革だ。これでブドウ園も「これまで手付かずだった森林」を35万ヘクタールまで利用できる。地元でのワイン産業育成がもたらす利益のおこぼれを狙って、多くの農家が九寨溝天然葡萄酒業などのワインメーカーと契約を結んでいる。

パンダ保護区も危機に

 広大な土地の獲得には厄介な問題が付き物だ。例えば、開発業者や企業が絶滅危惧種の生息する森林に立ち入ることに環境保護論者は懸念を抱いている。

 小金県のブドウ園計画は下手をすればジャイアントパンダやレッサーパンダやクチジロジカといった種をさらに絶滅の危機に追いやりかねない。九寨溝などはユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産に登録されている四川ジャイアントパンダ保護区群の臥龍や四姑娘山などにもブドウ園の建設を計画しているだけに、なおさらだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

テスラ車販売、3月も欧州主要国で振るわず 第1四半

ビジネス

トランプ氏側近、大半の輸入品に20%程度の関税案 

ビジネス

ECB、インフレ予想通りなら4月に利下げを=フィン

ワールド

米、中国・香港高官に制裁 「国境越えた弾圧」に関与
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 9
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中