中国富裕層のハートをつかむ商品新戦略
ファッションから自動車、健康関連商品まで、外国ブランドが中国特有の美意識や消費心理に配慮した商品作りに目覚めた
約束の地 先進諸国の贅沢品市場が低迷するなか、高級ブランドは中国に活路を見いだしている(写真は北京のショッピング街の一角) Jason Lee-Reuters
派手に買い物を楽しむ生活なんて、先進諸国では今や時代遅れかもしれない。だが中国では高級品ビジネスが花盛り。富裕層の好みもこれまで以上にうるさくなってきている。
ルイ・ヴィトンの旅行カバンやフェンディのハンドバッグを買うにしても、ニューヨークやパリで手に入るようなものではもはや満足できない。金の有り余った中国の消費者は、自分たちの好みやニーズに合わせて作られた贅沢品を求めているのだ。
フランスの高級ブランドのエルメスは先頃、「上下(シャンシア)」という中国向け新ブランドのブティックを上海にオープンさせた。ここで扱われているのは色とりどりのスカーフといった、いかにもエルメスらしい商品ではない。
例えば明朝風デザインの椅子や、薄くてきゃしゃな陶器。急須の形など、中国伝統のデザインから着想を得たアクセサリー。素材も紫檀や漆、カシミヤなど、中国産の高級品を使用している。店にはオープン初日から多くの客が詰め掛け、大きな話題を呼んでいる。これには他の欧米ブランドも無関心ではいられない。
コカ・コーラからプロクター・アンド・ギャンブルまで、欧米の多くの多国籍企業は長年にわたり、世界最大の人口を擁する中国でひと山当てようともくろんできた。しかし実際はトップブランドであっても、驚くほど伸び悩んでいるという例が少なくない。理由としては、中国が今も(欧米と比べれば)貧しいことや、貯蓄率が高いことなどが挙げられる。
中国限定商品が次々に登場
その上、多くのブランドは既存の商品をそのまま中国市場に持ち込んで売ろうとした。パッケージに並ぶ文字を漢字に置き換えるだけで、中国の消費者に合わせた商品を作ろうという考えはほとんどなかったのだ。
「つい最近まで『欧米で開発して中国に出荷する』というのが(欧米企業の)姿勢だった」と語るのは、ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)のシニアパートナーで、中国の消費事情に詳しいヒューバート・シュイだ。「だからうまくいかなかった」
さすがに企業も遅まきながら、このことを理解し始めた。金融危機以降、先進国の高級品市場が低迷を続ける一方で、中国は世界第3位の消費市場になろうとしている。経営コンサルティング会社のマッキンゼーによれば、中国の消費市場の規模は25年までに2兆3000億ドルになるという。
新車やテレビの販売台数では既に世界一、パソコンでは世界第2位につけている。ジュエリー(前年比で25%増)や化粧品(同20%)、高級車(同50%)といった分野でも急成長が続いている。
「金融危機後の世界の経済成長の主役交代は、誰も予想できなかったほど劇的だった」と、マッキンゼー上海支社のユバル・アッツモンは言う。「今では多くの外国企業の間で、中国を主力市場として扱わなければならないとの認識が広がっている」
かといって、エルメスのように中国人の美意識をなぞることが、中国市場で物を売る際に必ず必要かと言えばそうではない。大事なのは、中国の消費者が実際に何を求めているかをもっと注意深く掘り下げることだ。
最近では、多くの企業が中国人のニーズに着目した商品を売り出している。BMWはパワフルなM3の中国向け限定車「タイガー」を投入。今年の干支である寅にちなんで名付けられたこの車、カラーリングも派手なオレンジと黒だ。