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通貨ネオコンに成り下がったクルーグマン
人民元を切り上げない中国にアメリカ単独で制裁を課そうと主張するノーベル賞経済学者の愚
けんか腰 クルーグマンの主張はまるで強硬策を振り回すネオコンのようだ Tami Chappell-Reuters
ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマンは、どうやら新保守主義者(ネオコン)と運命を共にするらしい。厄介な国際問題に直面すると国際機関の役割を軽視し、けんか腰の単独主義を取りたがるあのネオコンだ。
14日付けのニューヨークタイムズ紙に掲載されたクルーグマンのコラムは、またも中国の為替操作に関するものだった。世界経済における中国の影響力は一般に思われているよりも小さいと述べたうえで、コラムをこう締めくくっている。
1971年にアメリカが同様の(今の中国ほどひどくはないが)ドル高に直面したときは、外国からの輸入品に10%の輸入課徴金を賦課して対応した。この課徴金は、ドイツや日本などの国々が対ドル為替レートを切り上げる通貨調整を実施したことで数カ月後に撤廃された。現時点で、同様の通貨調整を受ける脅威がなければ中国が通貨政策を変えることは考えにくい。ただし今回の場合、課徴金は25%程度になるだろうが。
実に大したものだ。世界経済の歴史を自分の都合の良いように解釈している。
71年にドルが実力以上に高くなっていたのは事実だ。ただしクルーグマンは、その責任がアメリカ自身にあったことを言い忘れている。元凶は、ジョンソン、ニクソン両政権が60年代から続けた「銃とバター(軍事費と社会福祉事業費の拡大)」の財政政策(戦争と財政支出増大の両方を抱えるアメリカの現状を連想させる)。ベトナム戦争を進め、社会福祉事業費の支出を大幅に拡大した一方で、増税はしなかった。このマクロ経済政策がインフレ期待と「ドルの過剰供給」を引き起こした。
市場は長期的なドル安を予想してドルを売り、各国政府はドルの価値を維持するためにドル買い介入を行った。これは各国がそう望んだからではなく、当時はブレトンウッズ体制という固定相場制で、ドルに対する自国通貨の価値を一定に保つよう決められていたからだ。さらにブレトンウッズ体制下、1ドルは金1オンスの価値をもつ建前だった。だがアメリカにもはやその支払い能力がないことは誰の目にも明らかで、たまりかねたイギリスの財務相が所有するドルをすべて金に交換して欲しいと迫ったとき、ニクソンはようやくドルと金との交換を停止して固定相場制にピリオドを打った。
要するに、71年当時、国際経済の「ならず者」は日本でもドイツでもなく、アメリカだったのだ。
それならば、アメリカの同盟国や友好国を遠ざける単独主義をとる前に、多国間主義的をとってはどうだろうか?
確かにクルーグマンが指摘するように、多くの多国間主義的なアプローチが行き詰まっているように見えることは確かだ。同じく14日付けのニューヨークタイムズは、1面にこんな記事を掲載した。
中国の為替政策に詳しい情報筋によると、中国政府は2007年以来、中国がいかに人民元の為替レートを実質的な価値以下に抑えようとしてきたかを記録した国際通貨基金(IMF)の一連の報告書を潰そうと動いてきた。
昨年9月にピッツバーグで開かれた先進20カ国・地域(G20)首脳会議(金融サミット)で、各国は11月までに経済政策を共有することに合意した。景気刺激策からの移行に関して協調し、世界経済が景気低迷からそのままインフレへとなだれ込むのを防ぐためだ。G20参加国はIMFがその調停役になることにも同意した。
しかし中国の経済政策に詳しい情報筋が匿名で語ったところでは、中国政府は11月の締め切りを過ぎてから、ほとんどが過去のデータで埋まったあいまいな文書を提出してきた。中国は、自国の通貨政策を批判する勢力に攻撃材料を与えることを恐れた、と彼らは言う。
最後のG20に関する話は特に不穏な動きだ。世界経済上の不均衡が是正されるはずのプロセスだからだ。ではクルーグマンが正しくて、単独主義しか解決策はないのだろうか?
そうは思わない。ブレトンウッズ体制の終焉と現在の「第2のブレトンウッズ」との間の大きな違いは、今回はアメリカが孤立していないことだ。71年当時は、誰もがアメリカの経済政策の継続に反対していた。そして現在は中国が国際経済の「ならず者」だという合意が世界で形成されつつある。
クルーグマンが同じ事を繰り返すのなら、私もそうしよう。
この駆け引きで最も打撃を受けるのはアメリカではない。中国の為替政策に翻弄されるのはアメリカ以外の世界、特にヨーロッパやアジア・太平洋地域だ。こうした国々の通貨はドルに対しても人民元に対しても値を上げており、アメリカ市場での国内製品や中国からの輸出品に対して競争力を失っている。
人民元安のために多くの国がアメリカと同じく困っている状況で、なぜアメリカが単独主義を貫かなければならないのか? 中国の為替政策で損害を被る国々と共に、中国抜きの国際的な枠組みを立ち上げればいいではないか。
私は何か見落としているだろうか?
Reprinted with permission from Daniel W. Drezner's blog, 16/03/2010.©2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.