原油がもっと安くなり続ける理由
長期的な視野に立って歴史をひもとけば、原油などの商品価格は一貫して下落している
原油や金属、穀物などの国際商品はいずれ値上がりするという見方が根強い。だが商品価格はこの200年間、テクノロジーの進歩や採掘方法の効率化のおかげで下落してきた。一時的な反発はあっても長期的には下がり続けるだろう。
ひとつの時代はその根底にある幻想がついえたとき、終わりを迎える。かつてアメリカの劇作家アーサー・ミラーはそう論じた。ここにきて、2008年までの世界的な好況を特徴付ける幻想──世界経済は永遠に右肩上がりで成長し、住宅価格は青天井といった考え方の大半はまさしくついえた。
だが、いまだに人心と市場をつかんでいる説が1つある。石油や銅、穀物、金などの商品はいずれ値が上がるという見方だ。08年の商品市場の下落は長期的な上げ相場におけるしばしの一服だと、多くの良識ある人々は考えている。
背景にあるのは力強い現実のトレンドだ。中国とインドの成長、世界的な石油備蓄量の低下(世界屈指の油田の多くは掘り尽くされている)、資源ナショナリズムへの恐怖(独立系の石油会社がコントロールするのは世界の石油資源の20%にすぎない)、エネルギー・農業分野の投資不足。いずれも供給の妨げになる。
とはいえ、すべては過去に例のある問題ばかりだ。それでも商品価格はここ200年、下落傾向にあった。テクノロジーの開発と採掘方法の効率化、そして代替原料の利用のおかげだ。カナダの金融調査会社バンク・クレジット・アナリストによれば、主要な産業用原材料の実質的な価格は1800年当時と比較して75%低い。
石油生産は限界に達したと騒がれてきたが、実際に原油市場が大きく下がるときの要因になってきたのは供給より需要だ。それに需要が盛り返せば、たいていの場合は不足分の一部を補う(原子力エネルギーや天然ガス、環境技術など)新しい別の道が登場する。
現在の原油の実質価格は1976年、さらにはアメリカで初めて石油が大量利用されるようになった1870年代と同じ水準だ。こうした長期的な価格の下落は新しい油田の継続的な発見とエネルギー効率の向上によるもので、「世界の石油は急速に枯渇する」という議論を骨抜きにした。
需要は価格を反映する
80年代の経験も今を読み解く参考になる。日本とヨーロッパ諸国は80年代も高成長を続けたが石油消費は基本的に横ばいで、その間に燃料効率を改善し、原子力など代替エネルギーへ移行した。同じように、04年以降の燃料生産の増加分のうち9割はバイオ燃料と合成油と液化天然ガスが占める。
国が発展すれば、国民1人当たりが消費するエネルギー資源や原材料は減る。中国とインドの好景気で原油や他の国際商品の価格が急騰するというのはただの通説だ。
いつの時代も世界には新しい経済大国が台頭してくるが、商品相場は下がり続けてきた。80〜90年代は世界経済が比較的堅調だった時期で、中国は平均9%で成長していた。それでも大半の商品価格が共に上昇ラインを描くことはなかった。原油を取ってみても、1バレル=40ドルを1度も突破していない。
原油価格が跳ね上がらなかった理由は単純だ。エネルギー資源や原材料に対する需要は価格を反映しやすい。つまり、高過ぎるとなれば消費者は購入を控えるか、何とかして代わりになるモノを見つけるわけだ。
60〜70年代には日本とヨーロッパ諸国の製造業の復活によって銅やニッケルなど工業用金属が値上がりした。世界経済に占める総消費量は銅が60年代半ばに0.45%、ニッケルは70年代に0.2%とそれぞれピークに達した。
その後、高騰した銅の代役を果たすようになったのがアルミニウムだ。こうした商品は製品の「材料」なので、全体のコストに占める一定の割合を超えることは許されない。材料が高過ぎて最終的な製品が売れなくなるようでは困る。