原油がもっと安くなり続ける理由
今の世界も同じような転換点を通過したと信じるだけの根拠がある。好調だった原油市場が前回混乱に陥ったのは79年。当時、石油消費量は世界全体のGDP(国内総生産)の7%を超えていた。08年も同様の水準で、そこから原油価格は3分の1以下まで下落。銅や亜鉛、鉛など主要銘柄も昨年、40〜50年ぶりのピークを極めた後で地に落ちた。
それでも原油価格は再び上がるというのが市場の読みだ。3年先を期限とする原油先物は1バレル=70ドル近くで取引されている(現物価格は50ドル前後)。一部のアナリストは12年までに1バレル=90ドルになると予想。銅からコメに至るまで、他の商品価格も上昇が見込まれている。
つい最近の05年まで正反対の予測に基づいて市場が動いていたことなどまるでお構いなしだ。長年、現物価格は先物価格を大きく上回っていた。相場は昔ながらのトレンドラインをたどる──すなわち「下がる」と大多数の投資家が想定していたからだ。
見当外れの上げ相場
しかし00年代に入ってからの商品市場の活況でそんな長期的展望は消滅した。投資家はこの期に及んでもなお、世界経済に健全な兆候が見つかると商品市場に資金を戻している。その結果がここ数週間の気まぐれな上げ相場だ。
こうした強気は見当外れだろう。世界は大恐慌以来最大の成長不振に陥っている。03〜07年の国際商品に対する急激な需要増は破竹の勢いの世界成長によってもたらされたが、似たような現象が近い将来また起こる可能性は低い。なのにアナリストの意見は「商品相場の上昇」でおおかた一致している。
楽観派は消費者の購買意欲が回復すれば原油や他の商品価格は上昇すると言う。悲観派は世界各国の中央銀行が資金供給を増やしていることから、インフレ対策として商品市場に投資している。
どちらのシナリオも歴史を無視している。インフレ環境下で上昇する商品銘柄はただ1つ。金だ。それに他の商品は好況の最盛期に世界経済が過熱して需要が供給を上回るわずかな間にだけ値を上げる傾向がある。今のところは逆で、ほぼすべての商品の供給が需要をはるかに超えている。
生産者の期待感もスランプに拍車を掛けかねない。石油や銅、鉄鋼の生産者は明らかに最近の相場の下落を一時的なものと考えている。工場の閉鎖など決定的な措置より、短期的な減産にとどめていることからも分かる。
中国の影響は過大評価
世界の鉄鋼業界は08年9月以降、総生産量を4割カットして製鉄所の稼働率を65%に抑えているが、閉鎖には踏み切っていない。となると当面は限定的に生産を続けるわけで、生産者は大きな価格決定力を握ることができない。
他の金属も状況は似ている。最近の価格下落を受けてもなお、多くの商品は生産コストを十分上回る値で取引されている。生産者が工場閉鎖を余儀なくされるほどの痛みを覚えるにはまだ値崩れの余地があるというわけだ。
一方、在庫量が5年あるいは10年来の水準まで肥大しているのに対して、現物価格はまだ10年前を大幅に上回っている。さらに値が下がらなければ、在庫をさばくのは難しいということだ。