原油がもっと安くなり続ける理由
原油価格が現状にとどまっているのは、中国が政府の積極的な景気刺激策によって好調を維持するとの幅広い期待感があればこそ。近頃ではちょっとでも中国に好材料があると──製造業の落ち込みが鈍化した程度でも──原油市場が喜びに沸くきっかけになる。
早合点もいいところだ。中国には過剰投資という問題がある。GDPの40%に匹敵する投資が10年近く、世界の経済発展の歴史に例を見ない水準で行われてきたのだ。多くの資金の受け皿だった輸出産業は世界不況のあおりを受けて低迷し、投資需要はしばらく上向きそうにない。
中国は世界の経済生産の10%を占める一方、大半の産業用原材料の25〜50%を消費してきた。これが長続きするはずはない。今後、輸出と投資への依存度を軽減して国内消費を原動力とする経済の構築を目指すにつれ、ペースは緩やかになるだろう。加えて、政府はより少ないエネルギーと原材料で稼働する効率のいい工場の開発にも力を入れている。
中国以外の国々では、原油やその他の商品に対する需要は年30〜60%のペースで減少している。これはかなり強力な値下げ圧力になるはずだ。
原油価格に中国が与えるインパクトはそもそも過大評価されている。世界の石油生産に占める中国の消費量は9%だが、OECD(経済協力開発機構)に加盟する先進国30カ国の総消費量は50%を上回る。原油の需要は世界成長に極めて敏感で、09年に世界経済が1.4%収縮すると予測される今、国際エネルギー機関(IEA)は日量240万バレル、つまり2.8%の需要低下を予測している。
今は長い下り坂の入り口
結果、産油国が価格を押し上げる力も弱くなる。OPEC(石油輸出国機構)は余剰生産能力が需要全体の5%を超えるといつも価格調整にてこずってきたが、現在は8%でさらに上昇しつつある。過去半年で3回減産に踏み切ったものの、加盟国が達成しているのは目標減産量の8割程度で「抜け駆け」への誘惑は増すばかりだ。
もちろん、将来のある時点で商品価格は反発するだろう。だがそれも一時的なことだ。現在に至るまで、数世紀にわたる下落ラインは長期の下げ相場とつかの間の活況によって形作られてきた。
クレディ・スイス・ファースト・ボストンのデータでは、原油の平均的な強気相場は4〜9年、弱気相場は11〜27年続く。08年夏に終わった強気相場では原油価格は9年間で10倍に上昇した。79年で終わった前回の高騰期と長さも規模も一致する。その後続いた売り相場は20年に及んだ。
歴史を参考にするなら、私たちはまだ長い下り坂の入り口に立っているにすぎない。
[2009年4月29日号掲載]