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岡野雅行(岡野工業社長)
米軍も頼りにする職人芸
内外のモノづくりの専門家が「最後の駆け込み寺」として頼りにする町工場。それが、東京都墨田区にある岡野工業だ。社員わずか6人の同社の取引先には、日本や外国の大企業に加え、NASA(米航空宇宙局)や米国防総省までが名を連ねる。アメリカで認められた特許もいくつももっている。
「うちはよそでできない仕事だけをずっとやってきた」と、社長の岡野雅行は歯切れのいい江戸弁で言う。硬くて加工しにくいステンレスを深くプレスした携帯電話のリチウムイオン電池のケース、痛くない超極細の注射針、モリブデンやチタンといった特殊な金属の加工など、どこの企業にも手に負えなかった難題を、岡野は解決してきた。
軍事機密の塊のような米軍のステルス戦闘機にも、岡野工業の開発したカーボン加工技術が使われている。世界中の高級車のバンパーに取りつけられている超音波センサーの小さなケースでは、同社製品が世界シェアの80%を占める。アメリカのある有力誌は、岡野を取り上げた記事に「ヒトは機械に勝つ」という見出しをつけた。
岡野工業の技術の核は、高度な金型製作技術とそれを使ったプレス加工のノウハウだ。金型とプレス機の相性や潤滑剤のブレンド、多数の工程を1つの機械にまとめて大量生産とコストダウンを可能にする工夫。どれも岡野の探求心とアイデア、職人芸が生かされている。外国企業の視察も多く、最近は東欧諸国からの見学者が増えた。
「最先端の仕事をしているから、最先端の情報が入ってくる。5年先、10年先の世の中が読めるし、それを見据えてもっとすごいものを考えられる」。それが続くかぎり、岡野の工場の門をたたく人は絶えないだろう。
[2004年10月20日号掲載]