コラム

新型コロナで窮地の習近平を救った「怪我の功名」

2020年05月22日(金)16時59分

「焼け太り」中国vsアメリカの新冷戦

まず、ポストコロナの習近平政権は以前よりも磐石となり、独裁者としての習の地位はさらに強固たるものとなろう。何しろ今の彼は、「素晴らしい決断で国を救った英雄」となっている。

そして、共産党の一党独裁体制もさらに強化される。国民の命を救ったとされる共産党指導の「制度的優越性」というのは、今後において一種の魔術的な言葉となって共産党擁護の殺し文句となっていく。共産党統治はしばらく安泰であろう。
しかしその一方、国際関係においては中国と国際社会との乖離、そして中国とアメリカとの対立は今後ますます深まり長期化していく。

これから、アメリカを中心にコロナウイルスを拡大させた中国の責任を追及し、賠償を求める国際的な動きが広がっていくだろう。だが中国は当然、それには一切応じずにして徹底的に反発する。中国はいかなる責任も認めることはしない。「ウイルス拡散」の責任を認めてしまえば、それがウイルス退治の「英雄」である習の名前に傷づくからである。

その一方、「制度的優越性」に自信を深めた共産党政権はより一層、西側の期待する民主化への道に背を向けて一党独裁体制の強化と永続化を目指していくであろう。それと同時に、疫病との戦いに「勝利」した習政権はますます、「中国の力」をバックに経済・軍事・国際戦略などのあらゆる側面において、アメリカとの対決姿勢を強めていくに違いない。

中国国内における専制体制の強化と米中対立の本格化・長期化こそ、「中国」を軸にしてみた時のポストコロナの世界の構図なのである。

20200526issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2020年5月26日号(5月19日発売)は「コロナ特効薬を探せ」特集。世界で30万人の命を奪った新型コロナウイルス。この闘いを制する治療薬とワクチン開発の最前線をルポ。 PLUS レムデジビル、アビガン、カレトラ......コロナに効く既存薬は?

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア大統領「ミャンマーとの関係着実に発展」、軍政

ワールド

プーチン大統領、米イラン間の仲介で合意 核協議など

ビジネス

英財務相、米との貿易協定締結「期待できる理由ある」

ビジネス

情報BOX:トランプ関税の影響、米の自動車や住宅建
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政権の対カナダ25%関税
  • 3
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Diaries』論争に欠けている「本当の問題」
  • 4
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 5
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 6
    バンス副大統領の『ヒルビリー・エレジー』が禁書に…
  • 7
    米大統領執務室での「公開口論」で、ゼレンスキーは…
  • 8
    「70年代の日本」を彷彿...発展を謳歌する「これから…
  • 9
    米ウクライナ首脳会談「決裂」...米国内の反応 「ト…
  • 10
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 5
    イーロン・マスクのDOGEからグーグルやアマゾン出身…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 8
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 9
    富裕層を知り尽くした辞めゴールドマンが「避けたほ…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story