コラム

米中貿易「第1段階合意」を中国はマジメに履行しない

2020年01月20日(月)11時23分

もちろんそれはトランプが再選を果たせないという前提であって、中国側の一方的な甘い期待ではある。しかし今の習政権には、そう期待する以外に難局打開の方法がない。トランプ政権との間で最初から履行困難な「第1段階合意」に署名した以上、この厄介な政権の早い終結に賭けるしかない。理論的には、この賭けの勝算は50%程度あるはずである。

しかし、もしトランプが再選を果たして来年からも引き続き大統領であるなら、中国は一体どうするのか。おそらく習政権とっては、それはそうなった時に考える問題で、今の緊急課題ではないのだろう。習政権にとっては、米国製品をほどほどに買うことで少なくとも今年いっぱい貿易戦争のさらなる拡大を避けることができれば、それはまず大いなる成果なのである。

第1段階の米中合意を「ほどほど」にして履行していくというのはおそらく、米国製品の購入だけでなく、他の合意内容の履行でも中国側の戦術となろう。知的財産権の保護にしても外国企業にたいする技術移転の強要にしても、中国は年内には今までの悪行をある程度控え目にしてアメリカに「改善」の実績をつくって見せるだろう。そして来年になって別の政権がアメリカで誕生するのであれば、最初から検証可能な数値目標のないこれらの合意事項の履行を放棄するのはいとも簡単である。

「第2段回の合意」はもはやない

第1段階の合意について結論を言えば、今年いっぱいは中国も米国製品の大量購入を含めた合意事項をある程度履行していくだろう。だが、来年になってどうなるのかは米大統領選の結果次第である。トランプが再選すれば、中国は苦しみながらも合意を履行していくしかないが、来年1月にアメリカの政権が変わった場合、中国が合意不履行に踏み切る可能性は大である。

後者の場合、米中間の貿易戦争となるのかどうかはアメリカの新政権・新大統領の考え方と政治スタイルによるので、今のところ予想は不可能だ。

最後に1つ付け加えれば、いわゆる「米中貿易第2段階の合意」は大統領選前はもはやないと考えた方がいい。選挙前の「第2段階の合意」が不可能だからこそ、双方は「第1段階合意」で手打ちしたわけである。今後の問題はむしろ、この「第1段階合意」がきちんと履行されていくのか、にある。

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プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

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