コラム

米中貿易「第1段階合意」を中国はマジメに履行しない

2020年01月20日(月)11時23分

この抜け穴とはすなわち、「2年間で2000億ドル分を買う」との約束はあるものの、最初の1年間、つまり2020年の今年にどれほど買うべきかは必ずしも明確に決められていない、ということである。

そうすると中国側はずる賢い方策を取ることができる。今年1年間、つまり米大統領選の結果とは関係なくトランプ大統領が確実に政権の座にいるこの1年間は、中国は約束した米国製品の購入を部分的に履行していく。例えばこの1年間で数百億ドル分の米国製品の追加購入を何とかして実現すれば、それでトランプ大統領のご機嫌を損なうことなく、合意を履行していることにもなる。

しかしその代わりに、年内に2000億ドル分の米国製品の半分以上を買うようなことは絶対しない。約束の「2000億ドル分米国製品購入」の大半をさまざまな理由をつけて来年の2021年に回す。そして今年11月まで大統領選の行方を見極める。

「バイデン当選」は中国のチャンス

もしトランプが落選すれば、来年1月には新政権が誕生する。新政権は当然民主党政権になるが、もし運良く親中のジョー・バイデン前副大統領が新しい大統領になれば、それこそ中国にとっての起死回生のチャンスとなる。

来年1月に新政権が成立すれば、中国はトランプ政権と交わした「第1段階合意」の履行を渋ったり停止したりできる。前述のように、第1段階合意の諸項目はすべて中国が履行していくものだから、中国が状況に応じて履行を止めることも簡単にできる。その際、第1段階合意の破棄を明確に宣言する必要はまったくない。中国側が履行を止めていれば「合意」はその時点で死ぬのである。

その場合、中国に対してアメリカが取り得る唯一の制裁手段はすなわち制裁関税の引き上げあるいは追加拡大である。しかし、中国に圧力をかけるために、中国製品に対して大規模な制裁関税をかけるというやり方はそもそもトランプの発明であって、トランプだからこそ取れる強硬手段・非常手段である。新しい大統領が今のトランプと同じような強硬手段を取るかどうかはかなり疑問であろう。おそらく、新大統領が「第2のトランプ」でなければ、中国との貿易戦争の拡大にはなかなか踏み切れない。それこそ中国側の期待する展開である。

その際、今の第1段階合意の履行を一旦止めてから、アメリカの新政権との間で「自由貿易」の理念に基づく新たな貿易協議の再開を呼びかけ、米中間の貿易枠組みの再構築を目指すのが中国の新戦略となるであろう。それによって中国は、今のような悪夢の現状から脱出できる。

プロフィール

石平

(せき・へい)
評論家。1962年、中国・四川省生まれ。北京大学哲学科卒。88年に留学のため来日後、天安門事件が発生。神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。07年末に日本国籍取得。『なぜ中国から離れると日本はうまくいくのか』(PHP新書)で第23回山本七平賞受賞。主に中国政治・経済や日本外交について論じている。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

欧州は自らの決済インフラ必要、地政学的緊張で=EC

ビジネス

アメリカン航空、冬の嵐響くもプレミアム需要で26年

ワールド

ガザ南部にパレスチナ人向け大規模キャンプ建設計画=

ワールド

トランプ氏、ミネアポリスで強硬姿勢修正 国境責任者
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市 vs 中国
特集:高市 vs 中国
2026年2月 3日号(1/27発売)

台湾発言に手を緩めない習近平と静観のトランプ。激動の東アジアを生き抜く日本の戦略とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    一人っ子政策後も止まらない人口減少...中国少子化はなぜ不可逆なのか
  • 4
    スペースXの宇宙飛行士の帰還が健康問題で前倒しに..…
  • 5
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 6
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 7
    「恐ろしい...」キリバスの孤島で「体が制御不能」に…
  • 8
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 9
    生活保護と医療保険、外国人「乱用」の真実
  • 10
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 1
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 2
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡張に新たな対抗手段
  • 3
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 4
    データが示す、中国の「絶望的な」人口動態...現実味…
  • 5
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 6
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 7
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 8
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパ…
  • 9
    40代からは「積立の考え方」を変えるべき理由──資産…
  • 10
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 8
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
  • 9
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 10
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story