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風刺画で読み解く中国の現実 Superpower Satire (CHINA)
中国人の記憶はたったの7秒? 政府批判も今や過去の話に
People's Republic of Amnesia / (c)2020 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN
<当初は中国でも珍しく政府非難や責任追及の声がSNSに上がったが、欧米で感染者が増えると世論は一転、他国への嘲笑と政府賛美が広がった>
「魚只有七秒鐘記憶(魚の記憶はたった7秒)」──この言葉を最近、中国SNS上でよく見掛ける。これは、どんな深刻な社会事件もすぐに風化し、人々の記憶の中から消え去ってしまうことを指している。今回の新型コロナウイルスもそうだ。
1月23日にウイルス発生地の武漢が都市封鎖された時、中国のSNS上に珍しく政府に対する非難や責任追及の声が現れた。武漢在住の女性作家・方方(ファンファン)が毎日ネットに投稿した「武漢日記」は作家の良心として注目を集め、大量にシェアされた。政府への謝罪要求や批判は高まる一方だった。
ただし3月以降、欧米の感染者が増え続けるなか、中国のネット世論も逆転した。政府批判が突然消え、代わりに欧米諸国に対する嘲笑と中国政府への賛美が始まった。感染拡大を抑止した中国の強さは共産党一党支配の制度的優位性を示し、欧米諸国の感染拡大は民主と自由の制度的な失敗だという。こういった政府賛美は、政府のネット工作員以外はほとんど「小粉紅」といわれる若い愛国者からの自発的な投稿だった。
つい先日まで人気だった「武漢日記」も英語版の出版によって批判の的となり、方方は「良心的作家」の座から引きずり降ろされ、売国奴として罵倒されている。日記の中に、感染情報を隠蔽したと中国政府を批判する記述があるためだ。今はアメリカが中国政府の責任を追及している最中。「武漢日記」の英語版出版は「給美国逓刀子(アメリカへ刀を渡す、アメリカに中国の罪状を示すという意味)」ではないか、裏切り者だ、決して許せない──というわけだ。
わずか2カ月前、政府の不作為と情報隠蔽は中国全土をパニックに陥れたが、今は何事もなかったかのように自国の政府を賛美し、他国の政府を嘲笑している。中国のネット民の記憶は本当に魚のようにたった7秒しか持たないのか。
洗脳教育を受けた小粉紅はそうかもしれない。だが、そうでない人もいる。政府の言論弾圧とネット検閲によって、公的な場所で自由に発言できない有識者たちだ。いつの日か、中国人の記憶が権力者の都合によって操縦されない日が来て、本当の記憶は必ずよみがえる、と彼らは信じている。
【ポイント】
方方
1955年、南京生まれ。武漢在住。2010年に魯迅文学賞を受賞。武漢を舞台に、社会の底辺で生きる人々の姿を描いた小説を発表している。代表作は『烏泥湖年譜』『風景』。
小粉紅
シャオフェンフォン。90年代以降に生まれ、「完全に赤く染まっていない未熟な共産主義者」を指す。中国語で小粉紅は薄ピンク色を意味することに由来。
<本誌2020年5月26日号掲載>
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