コラム

先端企業ファーウェイの裏の顔は、社員にもキバをむく「オオカミ」

2019年12月20日(金)18時00分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

The Other Face of a Leading Company (c) 2019 REBEL PEPPER/WANG LIMING FOR NEWSWEEK JAPAN

<自社の社員に対してもオオカミのようにキバをむき出しにしたファーウェイには、いつもは支持する愛国者もがっかり>

「ファーウェイ、謝罪しろ!」

最近、中国のネットは華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)に対する怒りで大炎上している。ファーウェイはずっと中国人が誇りに思う大企業で、1年前に副会長の孟晩舟(モン・ワンチョウ)がカナダで拘束されると、愛国主義の中国人は心から彼女を応援した。どうして世論は一変したのか。

きっかけは李洪元(リー・ホンユアン)事件だ。李洪元はファーウェイに10年以上年勤めたベテラン社員。李は2016年、所属部門の不正行為を上層部に告発し、翌年リストラされた。李は交渉の結果、30万元の賠償金を受け取ったが、その後、突然警察に連れ去られた。

最初の容疑は業務上横領だったが、その後、商業秘密漏洩に変わり、最後は賠償金の恐喝に。幸い李は上司とのやりとりを録音した証拠を持っていたので、無実が証明され釈放された。それでも拘束日数は251日に達した。

これは明らかに告発に対するファーウェイの報復だ。ファーウェイは業績至上主義の「オオカミ文化」を推奨している。自社の社員に対してもオオカミのようにキバをむき出しにしたのだが、これにはいつもファーウェイを支持する愛国者もがっかりさせられ、同社に批判的な立場の自由派と珍しく口をそろえて謝罪を要求した。ファーウェイは謝らなかったが。

李洪元事件はちょうど孟晩舟拘束から1年のタイミングで詳細が公表され、騒ぎになった。カナダで豪華な保釈生活を送る孟と李を比べ、中国ネットユーザーはこう批評した。

「この世の中に2つのファーウェイが存在している。1つは孟晩舟のファーウェイ。(中国の先進企業が西側の横暴と戦うという)国家的な大叙事詩に守られ、ますます屁理屈をこね、強がっている。もう1つは李洪元のファーウェイ。全ての偽装を剝ぎ取られ、ますます卑しい真実の姿をさらしている」

会社の不正を告発しただけで拘束される中国は、人権と法律なきジャングル世界。李の事件は決して唯一の事例ではない。中国のジャングル世界で育ったオオカミはファーウェイだけではない。ほかにもどう猛な企業が密林の中でうごめいている。

【ポイント】
孟晩舟
ファーウェイの創始者でCEOの任正非(レン・チョンフェイ)の長女。CFO(最高財務責任者)も兼務。2018年12月1日、アメリカの対イラン経済制裁違反容疑でカナダで逮捕された。

オオカミ文化
厳しい業績審査によって、社員が常に淘汰される危険を感じつつ、「オオカミのように」仕事に立ち向かうよう強いるファーウェイの社風。

<本誌2019年12月24日号掲載>

20191224issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月24日号(12月17日発売)は「首脳の成績表」特集。「ガキ大将」トランプは落第? 安倍外交の得点は? プーチン、文在寅、ボリス・ジョンソン、習近平は?――世界の首脳を査定し、その能力と資質から国際情勢を読み解く特集です。

プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 5
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story