コラム

保育の拡充よりも優遇される「3世代同居」の不可解

2016年03月22日(火)15時00分

「保育園落ちた」ブログをきっかけに待機児童問題が注目を集めている Yuriko Nakao-REUTERS

 ブログ「保育園落ちた日本死ね!!!」をきっかけに待機児童問題が注目を集めているが、とにもかくにも保育士の給与増を目指すべきだろう。厚生労働省調査の全産業の平均給与は約30万円。保育士は、その平均よりも9万円低い21万円。これでは保育士が不足するのは当然である。昨年末、厚労省は、小学校の教員免許を持つ人を保育士としても活用できるようにする緊急対策をまとめているが、ピントがずれている。なれる資格を持つ人を増やしても、給与水準が改善しなければ保育士は増えない。保育士の資格を持ちながらも主に給与面を理由にその職を選べずにいる潜在保育士。この潜在保育士にどうすれば現場に戻ってもらえるかを考えるべきだ。

 このブログについて、「これ、本当に女性が書いた文章なんですかね」と発言した平沢勝栄議員、「便所の落書き」と形容した杉並区・田中裕太郎区議など、頭を抱える存在がコンスタントに登場してくる。怒り心頭に発するが、本人達は自分の発言をさほど問題だとは思ってはいない様子だ。待機児童問題があらゆる問題の中で、どことなくエトセトラの存在に留まってしまうのは、こういう態度の方々が集結しているからなのか。とはいえ、選挙に響きそうとなれば重い腰を上げるわけで、このブログが果たした役割はとても大きい。

 皆、あまり話題にしなくなったが、昨年9月に発表された「新・3本の矢」のひとつに、「夢をつむぐ子育て支援」がある。安倍首相は新たな矢を提言する会見で、現在1.4程度の合計特殊出生率を、1.8まで回復させるとし、「家族を持つことの素晴らしさが、『実感』として広がっていけば、子どもを望む人たちがもっと増えることで、人口が安定する『出生率2.08』も十分視野に入ってくる。少子化の流れに『終止符』を打つことができる、と考えています」(2015年9月24日)と熱弁した。しかし、働く女性の多くが「第二子の壁」を感じているなかで、1.8という出生率を実現させるためには、「家族を持つことの素晴らしさを実感する」云々の前に、保育環境の充実を目指すべきだろう。

【参考記事】育児も介護も家族が背負う、日本の福祉はもう限界

 だが、現政権はそれを一義に考えているとは思えない。第3次安倍内閣で国土交通大臣に任命された公明党・石井啓一氏は、その就任会見の質疑応答で、「大臣就任に当たって、安倍総理から直接どのような点に力入れてほしいという指示がありましたでしょうか」と問われ、「出生率を上げていくということに関して、3世代の近居・同居を促進する住宅政策を検討し、実施するようにという御指示もございました」(国土交通省HP)と答えている。

プロフィール

武田砂鉄

<Twitter:@takedasatetsu>
1982年生まれ。ライター。大学卒業後、出版社の書籍編集を経てフリーに。「cakes」「CINRA.NET」「SPA!」等多数の媒体で連載を持つ。その他、雑誌・ウェブ媒体への寄稿も多数。著書『紋切型社会 言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社)で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞。新著に『芸能人寛容論:テレビの中のわだかまり』(青弓社刊)。(公式サイト:http://www.t-satetsu.com/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正

ワールド

イスラエル政府、ガザ停戦合意を正式承認 19日発効

ビジネス

米国株式市場=反発、トランプ氏就任控え 半導体株が

ワールド

ロシア・イラン大統領、戦略条約締結 20年協定で防
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲うウクライナの猛攻シーン 「ATACMSを使用」と情報筋
  • 4
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 5
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさ…
  • 6
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者…
  • 7
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 8
    「ウクライナに残りたい...」捕虜となった北朝鮮兵が…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    雪の中、服を脱ぎ捨て、丸見えに...ブラジルの歌姫、…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 6
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 7
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 8
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story