ライブ会場が不足する「2016年問題」が、いよいよ表面化している
首都圏のライブ会場不足が海外アーティストの来日公演にも影響している egon69-iStock.
今月、8年振りに来日公演を行なったイギリスの老舗ヘヴィメタルバンド、アイアン・メイデンのライブに出向くと、ヴォーカルのブルース・ディッキンソンが「いつもはこの4倍くらいの会場でやっているんだけど......」と切り出した。「でも、今日はいつもの4倍楽しい」と続いたので、皮肉ったわけではない。会場となったのは6000人規模の両国国技館。同会場で2公演というコンパクトなツアーになった。バンドの人気から考えるととにかく小規模の興行だが、プロモーターが大会場を渋ったわけでもなく、適切な会場がどこも空いていなかったのだ。バンドを指揮するベーシストのスティーヴ・ハリスは、来日に先駆けてのインタビューで、「叶わなかったのは大きな会場でやることだった。武道館クラスの会場に全くの空きがなかった。だから、少し小さな会場で2回ということになった」(『BURRN!』2016 年5月号)と語っている。
筆者が音楽評論家・伊藤政則氏にインタビューしたところ、「とにかく会場がない。まずは日本武道館説が出たんだけど、あそこは1日や2日よりも1週間や10日間連続で押さえるほうが優先されるという。蓋を開けてみたら、4月はエリック・クラプトンがあったりして、武道館がものすごく渋滞」していたという(『文藝別冊 アイアン・メイデン』)。大物アーティストになればなるほど、会場の空き具合にあわせて来日スケジュールを調整することが難しくなる。アジアツアーの一環や、オーストラリアツアーに向かう道中に立ち寄ることが多いので、最初に日程が定まり、その後で、希望に沿う会場を探すことになる。最適な会場が見つからなければ、来日自体を見送る判断にもなりかねない。
今回、「武道館クラスの会場に全くの空きがなかった」とガッカリされたのは不運ではない。東京五輪のタイミングにあわせた改修工事や老朽化による解体が相次ぐことによって、首都圏を中心にライブ会場が不足する「2016年問題」が、いよいよ表面化しているのだ。2010年に厚生年金会館が閉館し(跡地はヨドバシカメラのオフィスビルが建設予定)、渋谷公会堂は昨年10月に建て替えのために閉鎖、区庁舎と同時に建て替えられ、地上6階地下2階の公会堂として生まれ変わることになる。中野サンプラザはまだ稼働しているものの、こちらも再整備により、2020年度には区庁舎と中野サンプラザが解体され、最大1万人収容のアリーナに生まれ変わるという。
つい先日、日本スポーツ振興センター(JSC)が、大きめのライブ会場としても重宝されてきた国立代々木競技場について、耐震改修工事のために2017~18年度の間の22カ月にわたって使用できなくなることを明らかにした。JSCによれば、五輪の前年には稼働させたいとしている。去年12月から今年の8月にかけては、さいたまスーパーアリーナが外壁改修等の工事に入り、この2月から5月までの間は休館となっている。横浜アリーナも全面的な設備等の改修工事のために1月から6月まで休館している。ちょうどアイアン・メイデンのような「ドーム公演というわけにはいかないが、数千人規模のホールでは小さすぎる」というバンドを迎える会場の選択肢が極端に少なくなっている。
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