同時多発テロ後のパリに持ち込まれた「自粛」の空気
テロ直後のCOP21の際には、市民が路上デモの代わりに広場に靴を並べて地球温暖化防止策を訴えた Eric Gaillard-REUTERS
昨年春に刊行した著書『紋切型社会――言葉で固まる現代を解きほぐす』がBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞し、その本家である、フランス・パリにあるカフェ「ドゥマゴ」で行なわれる選考会(カフェに選考委員が集い、その場で今年の受賞者を選び、その模様を皆で見届ける)に顔を出してきた。
昨年11月に発生した同時多発テロによる非常事態宣言が施行されるなかでの渡仏、加えて授賞式の翌日にはパリ日本文化会館で講演する予定もあり、渡仏する旨を知人に話すたび、「狙われるんじゃないの?」といい加減な言葉を撒いてくるのに呆れていたものの、そんな言葉が積もればそれなりに不安になるのだから情けない。
エッフェル塔のそばにあるパリ日本文化会館では、11月のテロ直後に、岡田利規が主宰する劇団「チェルフィッチュ」が18日から21日にかけて公演を敢行している。公演初日はパリ北部でテロ実行犯との銃撃戦が繰り広げられた日である。予定通り上演することに強い危惧を持っていた出演者もいたそうだが、主宰の岡田は別の舞台のために日本にいた。
岡田はその経緯を『ふらんす特別編集 パリ同時多発テロ事件を考える』に「そのとき僕の周りで起こっていたこと」と題して記している。パリにいるツアーメンバーを案じることしかできない自分をもどかしく思いながらも、「人間の想像力を恐怖を用いてディレクションするのがテロリズムならば、それとは別の想像力の機能のありかたが可能であると示すことが、演劇には可能」だと書いた。
講演では通訳のフランス人男性がサポートしてくれたが、開演前の雑談で、ちょうどここでテロ直後に日本の劇団が舞台をやったそうで、という話から、自然と文学の話に派生し、「日本では今、フランス文学がどのように読まれていますか」と尋ねられた。「今は、ミシェル・ウエルベックの『服従』が読まれていますよ」と答えると、ああ、やはり、という顔をする。
昨年のシャルリー・エブド襲撃事件の当日に発売された本書は、極右国民戦線を破り、イスラーム政権が誕生するという架空の物語だが、「架空」というよりも、もはや「予告」という形容が似合ってしまう。通訳の男性が言う。「さすがにウエルベックはこの本のプロモーション活動をほとんどしていない。でも、皮肉なことに、この本は売れ続けています」。
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