コラム

アメリカンドリーム・ライフスタイル、作り出された成功者像との葛藤

2019年03月14日(木)11時55分

ただ、クラインがそれを作品プロジェクトとして昇華するには、さらなるきっかけを要した。韓国生まれ、ドイツ在住のカリスマ的哲学者、ビョンチャル・ハンの「The Burnout Society」(燃え尽き社会)理論との出合いがそれだ。この理論が、彼女自身の苦悩と、現代社会が抱える神経学的とも言われる時代の闇をはっきりさせてくれたのだった。

自らの体験と時代の理論の出合ったためか、彼女の写真哲学もはっきりしている。

「写真で最も重要なことは、正直であること。しばしば私たちは、既成の写真界が作り出したスタンダードなるものを考慮してしまう。本来はそうではなく、私たち自身がやりたいように作品への道を切り開いていくべき」

セルフポートレートが彼女自身のセラピーになっている。当初は、考えていた作品の中のキャラクターは他人に頼むつもりだったという。だが、時間的な制約や経済的な問題からか、自らキャラクターとして演じることになったらしい。

それが逆に功を奏する。カメラの後ろでなく被写体として前に立つことで、プロジェクトに対する考え方に幅が広がり、自分をよりストレートに見つめ直すことで、クライン自身のセラピーになっていったという。

とはいえ、作品のキャラクターは、彼女自身が演じていようが、あるいは他人が演じていようが、ほぼ常に何かに怯え、抑圧されているような雰囲気が漂っている。クラインによれば、常に外に向けて逃れようとしているが、結局(逃れられず)敗北しているのだという。

だがそれは、すでに触れたように、キャラクター・セッティングとはいえ、クライン自身と現代社会が抱えている大きな現実なのである。だからこそ、彼女の作品は文字通り、世界中の多くの人々に響くのかもしれない。

今回紹介したInstagramフォトグラファー:
Tania Franco Klein @taniafrancoklein

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プロフィール

Q.サカマキ

写真家/ジャーナリスト。
1986年よりニューヨーク在住。80年代は主にアメリカの社会問題を、90年代前半からは精力的に世界各地の紛争地を取材。作品はタイム誌、ニューズウィーク誌を含む各国のメディアやアートギャラリー、美術館で発表され、世界報道写真賞や米海外特派員クラブ「オリヴィエール・リボット賞」など多数の国際的な賞を受賞。コロンビア大学院国際関係学修士修了。写真集に『戦争——WAR DNA』(小学館)、"Tompkins Square Park"(powerHouse Books)など。フォトエージェンシー、リダックス所属。
インスタグラムは@qsakamaki(フォロワー数約9万人)
http://www.qsakamaki.com

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