コラム

解雇規制緩和はジョブ型雇用とセットでなくては機能しない

2024年09月25日(水)16時30分

2つ目には、単に仕事を標準化するだけではなく、人材が現場の実践に使える実務スキルだけでなく、その目的と手段、そして技術革新の流れと現在位置など、もっと大所高所からの理解が必要です。批判的な観点も含めてです。その上で、自分の過去職の経験を次の環境で、あるいは技術革新や国際化がさらに進んだ次の時代でも「応用できる」ような人材を育てるし、自分も目指すという社会的なクセをつけるのです。

職業教育における原理原則と経験則のダブル化とでも言ったらいいのかもしれませんが、これは公教育から始めるべきです。高校や大学のレベルでもっと高度な職業教育を行い、その専門知識、つまり専攻分野が確定した後に学ぶ専門科目が、そのまま高度なスキルとして労働市場で評価されるようにするのです。

大学では職業教育を強化せよというと、教養教育を無視するなとか、大学は新自由主義を批判する場だなどという反論が返ってきそうです。ですが、このように専門スキルを大学で身につけておけば、「スキルが人についた」形で、胸を張って個々の若者が労働市場での価値をアピールできるし、日本経済の全体が世界の周回遅れからカムバックできることにもなります。


「ジョブ型雇用」なしに解雇規制を緩和すると......

この2点、つまり標準化と高度なスキル教育を実現するというのは、言い換えれば本物の「ジョブ型雇用」を行うということです。

強く念押ししておきますが「ジョブ型雇用」とは、消費者視点の延長で職種に固執する新入社員を甘やかすことでもないし、経理一筋20年のベテランを自動的に専門家として評価することでもありません。

企業や官庁の業務を横串を刺すように標準化すること、その標準化されたスキルに高度な観点を加えた専門教育を社会全体で行っていくこと、こうした取り組みがされて初めて「ジョブ型雇用」は機能します。反対に、この「ジョブ型雇用」が成立していない中で解雇規制を緩和してしまえば、働く人々はどのように自分のキャリアを築いたら良いのか分からず、社会全体が混乱し、経済は更に低迷することにもなりかねません。

【関連記事】
米大統領選を左右するかもしれない「ハリスの大笑い」
総裁選、そして総選挙へ...国民が注目すべき「経済政策」の論点とは?

20250204issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年2月4日号(1月28日発売)は「トランプ革命」特集。大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で、世界はこう変わる


※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

フジHD、純利益7割減 フジテレビ広告収入減で下方

ビジネス

武田薬、通期の営業益3440億円に上方修正 市場予

ビジネス

ドイツ銀行、第4四半期は予想以上の減益 コスト削減

ビジネス

キヤノン、メディカル事業で1651億円減損 前12
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ革命
特集:トランプ革命
2025年2月 4日号(1/28発売)

大統領令で前政権の政策を次々覆すトランプの「常識の革命」で世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 3
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? 専門家たちの見解
  • 4
    トランプのウクライナ戦争終結案、リーク情報が本当…
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    東京23区内でも所得格差と学力格差の相関関係は明らか
  • 7
    今も続いている中国「一帯一路2.0」に、途上国が失望…
  • 8
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 9
    ピークアウトする中国経済...「借金取り」に転じた「…
  • 10
    フジテレビ局員の「公益通報」だったのか...スポーツ…
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果が異なる【最新研究】
  • 4
    日鉄「逆転勝利」のチャンスはここにあり――アメリカ…
  • 5
    緑茶が「脳の健康」を守る可能性【最新研究】
  • 6
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
  • 7
    DeepSeekショックでNVIDIA転落...GPU市場の行方は? …
  • 8
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
  • 9
    血まみれで倒れ伏す北朝鮮兵...「9時間に及ぶ激闘」…
  • 10
    煩雑で高額で遅延だらけのイギリス列車に見切り...鉄…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のアドバイス【最新研究・続報】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 6
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 7
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 8
    中国でインフルエンザ様の未知のウイルス「HMPV」流…
  • 9
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 10
    戦場に「杖をつく兵士」を送り込むロシア軍...負傷兵…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story