コラム

党議拘束の緩和こそ政治改革の決め手

2024年04月17日(水)15時00分

2つ目は、そのために選挙で勝つには政策論争ではなく、地盤の涵養だとか、地区組織の養成などという、不透明な「カネ」の問題が避けて通れなくなります。党議拘束がなければ、地元の有権者は少しでも自分たちの主張に近い候補のもとに結集して、その候補の選挙運動には手弁当で参加するでしょう。

ですが、そうではない中で、自分たちの代表が、意見をストレートに持っていってくれるシステムはなく、その代わりに、場合によっては公認候補が天から降ってくるシステムが続いています。これでは、地元の集票マシーンはそう簡単には動きません。そこで飲食を伴う会合や、冠婚葬祭に絡んだカネのやり取りなどで組織を動かす必要が出てきます。

今回の自民党の裏金問題で、議員たちに罪の意識がないのはこのためです。使途を明らかにできないようなカネを使わないと、地方組織という集票マシーンが動かないからです。それもこれも、党議拘束という制度があるからと言えます。

有権者の主権が侵害されている?

理念的な話にするのであれば、党議拘束によって有権者の主権が侵害されているとも言えます。自由な議論がネットやメディアで戦わされ、その意見が有権者の代理としての国会議員に集約されて、その議員の投票行動になるというのが間接民主制です。ですが、有権者の代表である個々の議員の力を上回る権力として「討議拘束」が機能すると、主権行使が上書きされてしまうわけです。これは主権行使の妨害だと言えます。

こうした議論を提起すると、大統領制であるアメリカとは違い、日本は議院内閣制なので党議拘束は必要だという声が返ってきます。議院内の勢力は、そのまま議院内閣制に結びついているのは事実で、首班指名選挙に関しては党議拘束があっても良いでしょう。ですが、その他の議題については自由投票として選挙区の民意を代表するのが良いと思います。

党議拘束が外されて自由投票になれば、無能な議員、特に選挙区の意見や利害を代表できない議員は淘汰される仕組みが必要です。それは予備選挙であり、現職イコール公認という甘えた制度を廃止して、どの議員も改選時には予備選の洗礼を受けるようにすれば良いのです。

日本では政治不信が激しくなった結果、議員の定数削減などが議論がされる時代になってきました。ですが、数を減らす前に、この党議拘束解除をやれば、個々の議員に求められる能力と機能は一気に拡大します。そして予備選を加えることで、無能な候補、民意を無視する候補を排除することができます。

議員が何もしていないような印象が広まる中では、議員定数を減らす議論が出るのは当然です。ですが、減らす前に「党議拘束の解除」をやって、個々の議員に徹底的に仕事をさせる方が、民主主義は機能していくのではないかと思います。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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