コラム

先輩後輩カルチャーは「キャンセル」するだけでいいのか?

2023年12月20日(水)15時15分
いびられる女性

今年日本で象徴的だったのは上下関係のカルチャーの見直し koumaru/Shutterstock

<リーダーの選び方、リーダーの役割といった日本の組織の設計そのものが問われている>

2023年の日本社会において象徴的だったのは、行き過ぎた上下関係、例えば「先輩後輩カルチャー」への反省がようやく本格的になったことです。例えば、宝塚歌劇団では、1年先輩であるだけで絶対的な支配非支配関係が成立しており、これがパワハラの温床になっていたと報じられています。

また、プロ野球の東北楽天でも、後輩へのハラスメントを行っていた投手が解雇されて話題になりました。ジャニーズ事務所の事件も、性犯罪を繰り返していた創業者だけでなく、犯罪の隠蔽や間接的な幇助が続いた背景には、上下関係の強い組織風土が指摘されています。


こうした事件への批判だけでなく、一般の社会でも年末の忘年会について、上司や先輩の自慢話を我慢したり、必要以上にプライベートについて聞かれたりするカルチャーがようやく否定されるようになりました。酒席での一発芸や飲酒の強要ということにも、批判の目が向けられていますし、社長以下の経営陣が宴会への参加を義務付けているのであれば、それは勤務時間に算入すべきだというような議論も始まっています。

とにかく、企業にしても学校にしても、役職や年齢で上下関係を決め、まるで封建時代のような支配や服従をすることで、組織が成り立つというカルチャーに対して、ようやく反省が始まりました。個人的には、1980年代の後半、企業も個人も国際化へ目を向けだしていた時期に、タイミングよくこのような封建的なカルチャーを根絶すべきだったと思います。そうすれば、働く人のモチベーションも、生産性もずっと改善されていたかもしれず、知的産業への転換によって先進国型の経済を実現できたかもしれません。

封建的カルチャーを否定するだけではダメ

遅過ぎたという感じはあるものの、企業や教育機関からようやく封建的な組織風土が追放されるのは悪いことではないと思います。では、このような流れで、先輩の横暴や上司のパワハラを告発し、そのような硬直した上下関係をキャンセルし続ければいいのかというと、それはまた違うと思います。

今のままですと、管理職は「少しでも強く言うとパワハラになる」ということで、管理監督が緩くなりがちです。学生スポーツの世界に至っては「勝利至上主義がハラスメントの温床」だということから、別に勝たなくても楽しければいいという話も出てきています。こんなことでは、あらゆる組織の活動は秩序を失い、全体の効率は更に下がって全員が不幸になるだけです。

問題は、封建的なマネジメントを否定する代わりに、近代のマネジメントを導入しなくてはならないということです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story