コラム

動き出した2024年米大統領選、現時点での情勢は?

2023年02月22日(水)16時15分

バイデンは20日、ウクライナの首都キーウを電撃訪問した Ukrainian Presidential Press Service/Handout/REUTERS

<世代交代が進む共和党に対して、高齢のバイデンが民主党のリスク要因に>

昨年11月に中間選挙が終わった時点では、アメリカの政局は一種の膠着状態でした。まず、中間選挙の前のタイミングで2024年大統領選への立候補を表明していたドナルド・トランプは、中間選挙で自分が推した候補の結果が思わしくなく、その存在感は低下していました。

一方で、バイデン大統領率いる民主党は、直前の予想を覆す善戦を見せました。そこで、民主党内に出ていた「選挙で大敗したら、バイデン下ろし」という動きは一旦消えました。バイデンに関しては、その後に「機密書類の不法保持」という疑惑が出て立場が危なくなりましたが、政敵である共和党のペンス前副大統領にも同様の疑惑が出たことで、スキャンダルが帳消しになっています。

その後のバイデンは、猛烈な勢いで精力的に動き始めました。2月7日の一般教書演説は、80分近いエネルギッシュなものでしたし、演説に浴びせられたヤジなどへの対処も完璧で、政治家バイデンの集大成というべき仕上がりでした。また、2月20日には数名の側近と記者のみを連れて、秘密裏に鉄道ルートでウクライナの首都キーウを電撃訪問するという「はなれわざ」をやってのけています。

まるで、3月に入ったら再選へ向けての出馬宣言をしそうな勢いですし、もしかすると本当に宣言するかもしれません。ただ、ここへ来て政権の周辺では、ハリス副大統領も存在感を見せています。2月18日には、ドイツのミュンヘンで行われた安全保障会議に出席して、ロシアの「人道に対する罪」を非難したシーンは、地上波の3大ネットワークで何度も取り上げられていました。

出馬表明したニッキー・ヘイリー

一方で、共和党の側でも動きが激しくなってきました。まず、2月14日にはトランプ政権で国連大使を務め、その前はサウス・カロライナ州の知事であったニッキー・ヘイリーが正式に大統領選への出馬表明を行いました。インタビューでは、猛烈な勢いで「バイデンのウクライナに対する弾薬提供が遅い」と罵倒するという、「いつものヘイリー節」を展開していました。

どういうことかというと、共和党ではヘイリーの前に出馬表明しているのはトランプだけであり、この時点での立候補ということは、トランプへの挑戦になります。ですが、ヘイリーは「トランプ批判は絶対にしない」のです。しかし、発言をよく聞くと「ウクライナにはもっと早く弾薬を提供せよ」と言っているわけで、これはプーチンに操られてウクライナを罵倒しているトランプに対しては、極めて鋭角的に対立する姿勢に他なりません。

ですが、その「共和党の保守本流+やや軍事タカ派寄り」という立場を、「トランプ批判」をしないで宣言するというのが、いかにも「ヘイリー流」というわけです。国連大使の時もそうでした。トランプがいない場所では平然と「NATOの結束」や「アサド独裁政権への批判」を展開しつつ、トランプと一緒のときは「適当に発言の辻褄を合わせる」という「ウルトラC」を続けていたのが彼女です。

ですが、さすがにトランプの外交方針には「ついていけなく」なると、国連大使を辞任したわけですが、その際にもわざわざフロリダのトランプ邸に乗り込んでいって、「円満退社」を演出、お人好しのトランプは「ごまかされた」感じになっていたのでした。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    メーガン妃が「アイデンティティ危機」に直面...「必死すぎる」「迷走中」
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    深夜の防犯カメラ写真に「幽霊の姿が!」と話題に...…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 8
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 9
    トランプが「マスクに主役を奪われて怒っている」...…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 4
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 9
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 10
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
  • 10
    「DeepSeekショック」の株価大暴落が回避された理由
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story