コラム

衆院選、民意の敵は党議拘束と当選回数

2021年10月27日(水)15時30分

若者や女性など少数者の民意がほとんど国会に届くことがないのはそのためです。例えばですが、新人議員に対しては「失言すると党の評判が悪くなる」などの理由で「研修」が行われるとか、いつまで経っても若手議員は「魔の3回生」などとバカにされるとか、呆れて物が言えません。その選挙区で、その議員を選んだ有権者の民意を全くリスペクトしていないからです。

とにかく、党議拘束と当選回数の序列がある限り、選挙区の民意はダイレクトに国会に反映しません。

例えば、アメリカの場合は当選2回で弱冠31歳のアレクサンドリア・オカシオコルテス議員が下院民主党左派の実質リーダー格となって、国政に大きな影響力を行使しています。これは、巨大なミレニアル世代という人口に支えられている部分が大きいにしても、党議拘束と当選回数序列がないという制度を前提としての現象と言えます。

こう申し上げると、大統領と議会が分離しているアメリカはともかく、日本の場合は、議院内閣制が国の根幹を成しているので、党議拘束を外すわけにはいけないと言う反論が来そうです。もちろん、議院内閣制ですから総理大臣指名選挙に関しては、党議拘束は必要でしょう。また予算や、重要な条約の批准なども強めの拘束がされていいと思います。

各政党の自己改革で実現できる

ですが、それ以外の法案に関しては、法案の性格によって党議拘束に強弱をつけるべきだと思います。また、党議そのものの決定も、重要法案については特にそうですが、密室でなく党内での投票を行うとか、党内の少数意見を公開した上で決定プロセスを可視化して有権者の納得感を高めるなどの工夫が必要と思います。この点では、自民党以外にも猛省が必要な党は多いのです。

他にも、候補をスイッチしたり、野党で一本化したりしなかったりした例など、公認候補の選定が恣意的に見える問題もあります。これも深刻な問題です。ただ、この問題を解決するには、公式な予備選など大掛かりな制度設計と、有権者の意識改革が必要ですから簡単にはできません。

とにかく、党議拘束と当選回数による序列という問題は、各政党が自己改革をすれば実現できます。今回の選挙を機会に、この問題への関心が高まることを期待したいと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

マスク氏、近く政権離脱か トランプ氏が側近に明かす

ビジネス

欧州のインフレ低下、米関税措置で妨げられず=仏中銀

ワールド

米NSC報道官、ウォルツ補佐官を擁護 公務でのGメ

ワールド

トランプ政権、輸入缶ビールに25%関税賦課 アルミ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story