コラム

東京五輪に1300億円支払っている米NBC、その報道姿勢が意外に冷静な理由

2021年07月21日(水)15時00分

また、NBCではガスリー氏に加えて、専属の医療解説者であるジョン・トレス医師もすでに東京入りしており、陽性者が出た女子テニス、女子体操、女子バスケ、男子バスケなどに関して、チームとしての対応を説明していました。

ある意味では部外者のロイターはともかく、1300億円(推定)を支払っているNBCが冷静でいられるというのは不思議です。どうして陽性者の問題など、ネガティブ情報を大きく報じるのでしょうか。開会式まで残り数日という段階では「盛り上げモード」に転換してもいいはずです。

考えられる理由の1つは、そもそもアメリカでは政治やビジネスにおいて、「ネガティブな話は先に出す」とか「最初は悲観的な数字を見せる」というのが、常套手段だということです。NBCは1300億円がかかっている「からこそ」単純にこのセオリーに従っているのでしょう。

スポンサーとはおそらく再契約

もう1つは広告料の契約が背景にあると思われます。まず2020年の3月の時点で五輪が1年延期という決定がされました。この時点で、広告料について再交渉がされたようで、その中では、21年にも開催できないとか、期間の途中で中止となるなど、様々なケースに関する検討がされたはずです。そして、想定できるケースを検討した上で、NBCと各スポンサーは再契約に合意したと考えられます。同時に、NBCとIOCの間の契約も書き換えられたはずで、NBCとしては「最悪のケース」に対する契約面での用意はできていると考えられます。

そのような文化や契約の問題に加えて、例えばロイターの報道にあったように、NBCとして真剣に「開催期間中の中止」という事態への覚悟をしているのは事実のようです。アメリカ東部時間20日(火)夕刻のニュースでも、東京からNBCのトム・リャマス記者は「状況によっては中止の可能性はある」と念押しをしていました。

ちなみに、NBCは日本の対策に対して懐疑的な姿勢は見せていません。ガスリー氏も、トレス医師も、リャマス記者も「日本の感染対策は本当に徹底している」とその厳しさを好意的に紹介した上で、それでも感染拡大が避けられない場合があるという説明をしています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:ルーマニア大統領選、親ロ極右候補躍進でT

ビジネス

戒厳令騒動で「コリアディスカウント」一段と、韓国投

ビジネス

JAM、25年春闘で過去最大のベア要求へ 月額1万

ワールド

ウクライナ終戦へ領土割譲やNATO加盟断念、トラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
特集:サステナブルな未来へ 11の地域の挑戦
2024年12月10日号(12/ 3発売)

地域から地球を救う11のチャレンジと、JO1のメンバーが語る「環境のためできること」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや筋トレなどハードトレーニングをする人が「陥るワナ」とは
  • 2
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説など次々と明るみにされた元代表の疑惑
  • 3
    【クイズ】核戦争が起きたときに世界で1番「飢えない国」はどこ?
  • 4
    JO1が表紙を飾る『ニューズウィーク日本版12月10日号…
  • 5
    混乱続く兵庫県知事選、結局SNSが「真実」を映したの…
  • 6
    【クイズ】世界で1番「IQ(知能指数)が高い国」はど…
  • 7
    NATO、ウクライナに「10万人の平和維持部隊」派遣計…
  • 8
    健康を保つための「食べ物」や「食べ方」はあります…
  • 9
    韓国ユン大統領、突然の戒厳令発表 国会が解除要求…
  • 10
    シリア反政府勢力がロシア製の貴重なパーンツィリ防…
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    エリザベス女王はメーガン妃を本当はどう思っていたのか?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式ト…
  • 5
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 6
    健康体の40代男性が突然「心筋梗塞」に...マラソンや…
  • 7
    メーガン妃の支持率がさらに低下...「イギリス王室で…
  • 8
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 9
    NewJeansの契約解除はミン・ヒジンの指示? 投資説な…
  • 10
    黒煙が夜空にとめどなく...ロシアのミサイル工場がウ…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story