コラム

【オバマ回顧録】鳩山元首相への手厳しい批判と、天皇皇后両陛下への「お辞儀」の真実

2020年11月19日(木)17時00分

今月の大統領選でバイデンの応援演説をするオバマ前大統領(11月2日、ジョージア州アトランタ) Brandon Bell-REUTERS

<外交も含めたオバマ政権8年の政治的決断を克明に記録した本書は、歴史的な記録として貴重>

かねてから話題になっていたバラク・オバマ前大統領の回顧録『約束の地(A Promised Land)』が、今月17日に発売になりました。紙版では768ページでこれだけでも大冊ですが、実は今回の『約束の地』は前編であり、後編に当たる部分はこれから完成するようです。その後編が仮に同じ分量だとすると2冊で1500ページになるわけで、これは相当な分量です。

肝心の内容ですが、シカゴ時代や上院議員時代から書き起こし、大統領職にあった8年間に、自分がどのように国内外の情勢を認識して、合衆国大統領として判断を下し続けたかが克明に記録されています。もちろん、政治的影響力ということではまだ「現役」であるオバマ氏ですから、自分の判断が正しかったという観点からはブレていませんが、とにかく情報量が半端ではないので、歴史的な記録として貴重であると思います。

ところで、本書における日本に関する言及ということでは、鳩山由紀夫元総理への批判が入っていることが話題になっています。この点に関しては 鳩山氏に関しての "A pleasant if awkward fellow," という形容をどう解釈したらいいかが議論になっているようです。例えば朝日新聞(「不器用だが感じの良い男」)はマイルドな訳、一方で時事通信(「感じは良いが厄介な同僚」)や毎日新聞(「感じは良いがやりにくい」)は辛口ということで、訳し方にも幅があります(いずれも電子版)。

この部分ですが、直前には鳩山氏との日米首脳会談で、経済危機、北朝鮮情勢に加えて「沖縄海兵隊基地の移転問題」が話し合われたとして、その直後にこの表現が来ているというのが大切です。また、この部分の後には、当時の日本では総理がコロコロ変わっており、"a symptom of the sclerotic, aimless politics"(硬直して目的を失った政争という病状)が10年近く続いたという厳しい指摘がされています。それが、段落の終わりにある"He'd be gone seven months later."(鳩山氏はその7カ月後に辞任した。)という記述に繋がっています。

手厳しい批判であることは間違いない

ですから、この箇所の全体は普天間基地移転問題で迷走した鳩山氏への批判と理解するのが妥当です。こうした文脈を踏まえると、"A pleasant if awkward fellow," は、「一緒に仕事をする相手(つまり同盟のパートナー)としては困った存在であるかもしれないが(多少の皮肉も込めて)好人物ではある」という意味になると思います。

鳩山氏本人は「不器用だが陽気な」という訳を掲げて、「強烈な批判ではない」とか、「メディアが叩くのは政権への忖度か」などとしているようですが、前後の文脈を考えると、かなり手厳しい批判であることは間違いありません。

沖縄海兵隊の問題は、当時のオバマ政権にとってはその後の2011年に発表された「リバランス政策」でより明らかになるように、中国に対するパワーバランスの最前線でした。ですから、普天間移設問題というのは、オバマ氏にとっては東アジアにおける安全保障上の重要な問題だったわけです。本書の記述はその意味で、オバマ政権の記録を歴史に残す上では、全く自然だと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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