コラム

麻薬王エル・チャポが、メキシコからアメリカに移送されて有罪判決を受けた理由

2019年02月14日(木)15時00分

裁判を通じて、JGLの複雑な女性関係が明らかになったほか、麻薬の密輸に使用された潜水艦隊が明るみに出たり、その艦隊と米海兵隊が何度も銃撃戦を演じたことが分かるなど、とにかく唖然とする内容の連続でした。また、ダイヤモンドを一面に散りばめたグリップにJGLというイニシャルを埋め込んだハンドガンも提出され、資金力の証拠とされたというニュースも報じられています。

裁判を通じて確認されたのは、JGLとその組織シナロア・カルテルは、国境を越えてアメリカに麻薬を持ち込む際には、壁のない地帯などを違法越境することはなく、基本的には自動車などで税関を突破しているということです。つまり、トランプ大統領の言う「壁」を建設すれば「麻薬をシャットアウトできる」という論理は正しくないというわけです。

この「エル・チャポ」ことJGLですが、死刑は適用されないことになっています。実際は、自身が直接手を下したもの、あるいは部下に命令して行ったものなど全部で、2000~3000人を殺害しているという容疑もあるのですが、オバマ政権に身柄を引き渡すにあたってメキシコ政府は「メキシコは死刑を廃止しているので、アメリカで裁く際に死刑は適用しないで欲しい」という条件をつけており、アメリカはこれを受け入れているからです。

現時点で量刑は決まっていませんが、終身刑、しかも釈放の可能性は一切ないという条件付きの終身刑になる公算が大きいと報じられています。その場合は、コロラド州にあり、俗に「スーパーマックス」と呼ばれているアメリカで最も警備の厳しい刑務所に服役することになりそうです。

この「スーパーマックス」には、連続爆弾犯「ユナボマー」や、アトランタ五輪の爆弾テロ犯である「エリック・ルドルフ」、あるいはオクラホマ爆弾テロの共犯者「テリー・ニコルズ」などが服役しており、JGLはそこに仲間入りするというのです。

その場合、万が一にJGLが脱獄に成功するようでは、アメリカの司法制度も、そしてメキシコとの外交におけるアメリカの威信も崩壊してしまうわけで、この「スーパーマックス」の警備体制が注目を集めることになりそうです。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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