- HOME
- コラム
- プリンストン発 日本/アメリカ 新時代
- 麻薬王エル・チャポが、メキシコからアメリカに移送さ…
麻薬王エル・チャポが、メキシコからアメリカに移送されて有罪判決を受けた理由
2016年1月、2度目の脱獄後にメキシコ当局に身柄を確保されたエル・チャポ Edgard Garrido--REUTERS
<史上空前の麻薬王は、大量の麻薬密輸だけでなく数千人の殺害に関与したとされ、メキシコでの2度の脱獄の末にアメリカに身柄移送された>
メキシコからアメリカに移送されて裁判を受けていた、「エル・チャポ」こと史上空前の麻薬王、ホアキン・グスマン・ロエーラ(JGL)に対して、2月12日に有罪判決が下されました。ニューヨークのブルックリンにある連邦地裁では、この3カ月間、厳戒態勢の中で裁判が続いていましたが、これで一つの区切りを迎えたことになります。
メキシコ人であり、メキシコ最大の犯罪組織シナロア・カルテルのボスとして、闇の麻薬ビジネス界に君臨していたJGLが、どうしてアメリカで裁判を受けていたのかというと、そこには2015年7月に発生したJGLの脱獄という事件があります。
それ以前に一度、2001年にJGLは、メキシコの刑務所からの脱獄に成功していました。この時は、多くの刑務官を買収して堂々と逃げたとされ、メキシコ政府の権威は地に落ちたのです。ですから、JGLの再逮捕は、メキシコ政府の威信が懸かる事態となりました。2014年には警察ではなく、メキシコ海兵隊という正規軍が投入され、その結果として再逮捕に成功していたのです。
ですが、2015年にJGLは一味の協力もあって、何と1マイル(1.6キロ)のトンネルを掘って再度脱獄に成功したのでした。これに対して、アメリカ政府は激怒したのです。というのは、メキシコからアメリカに対して密輸される麻薬の半分についてJGLの組織が関与しているとされる一方、長年の「麻薬戦争」の中でアメリカ側は何度もメキシコに対して、JGLの身柄引き渡しを要求していたからです。
その要求を断っておきながら脱獄を許すとは何だ、というわけで当時のオバマ政権は激しい怒りを表明しました。窮地に追い詰められたメキシコ政府は、2016年の1月に銃撃戦の末、JGLの身柄確保に成功しました。この時点で、オバマ政権は「2度の脱獄を許している以上、メキシコの刑務所は信用できない」として、身柄引き渡しを強く要求。メキシコ政府もこれに応じざるを得なかったのです。
身柄引き渡しは2017年1月19日、つまりオバマ政権の最後の日でした。JGLはアメリカの検察に対して「無罪」を主張、司法取引は成立せずに裁判となったわけですが、組織による攻撃等も予想される中、法廷の準備に時間がかかり、裁判は2018年11月にスタートしました。
地元ニューヨークのメディアは、法廷の様子を詳細に報じていましたが、異様な裁判だったようです。まず、JGLの側は資金力にモノを言わせて、膨大な「反証」を用意するという戦術に出ました。これに対して検察は、それを上回る証拠を持ち出し、この種の刑事事件としては異例である、双方が膨大な証拠を提出する裁判となったのです。
環境活動家のロバート・ケネディJr.は本当にマックを食べたのか? 2024.11.20
アメリカのZ世代はなぜトランプ支持に流れたのか 2024.11.13
第二次トランプ政権はどこへ向かうのか? 2024.11.07
日本の安倍政権と同様に、トランプを支えるのは生活に余裕がある「保守浮動票」 2024.10.30
米大統領選、最終盤に揺れ動く有権者の心理の行方は? 2024.10.23
大谷翔平効果か......ワールドシリーズのチケットが異常高騰 2024.10.16
米社会の移民「ペット食い」デマ拡散と、分断のメカニズム 2024.10.09