コラム

中間選挙で、もし上院が与野党同数になったら?

2018年11月06日(火)19時00分

与野党同数というと、例えば沖縄県の与那国町の町議会で、与野党同数のために議長を出すと議決権が減るので議長選を100回近く行うという「ドタバタ」がありました。ですが、米上院の場合は「議決が同数の場合は上院議長である副大統領が最後の一票を入れて決する」という憲法の規定があり、そうした「堂々巡り」になる心配はありません。

では、50/50というのは事実上は51/50であって、政治的には上院は与党支配で安泰なのかというと、必ずしもそうではありません。というのは、比較的近年、この50/50という事態が実際に起きており、政治的には実に不安定だったからです。

それは、2000年11月に行われた選挙の結果として2001年に発足した「第107議会」の上院です。この時は、選挙の結果、共和党が議席を減らし、50/50という議席配分が実際に起きてしまいました。そこで、同年に発足したブッシュ政権のチェイニー副大統領が「最後の一票」を行使して上院をコントロールしたのですが、次の選挙までの2年間に様々なことが起きました。

「議員の死亡・辞職」......基本的には選出された州の規定で暫定後任が指名され、その後に補選が行われました。

「議員の離党」......諸事情により所属政党を離党するケースが発生しました。

「議員の所属政党変更」......途中で共和党から民主党にスイッチする議員がでてきたため、これで両党の均衡が一時的に崩れています。

この「第107議会」の場合、2年間にこうした「議席数の変化」は6回も発生しています。ということは、仮に今回の選挙を受けて2019年1月に発足する「第116議会」が、上院の「50/50」でスタートした場合に、そのまま2年が平穏に過ぎる可能性は低いわけです。

実はその前哨戦というべき動きはすでに始まっています。今回の中間選挙では改選になっていないのですが、共和党内の「比較的中道派の議員」である、メーン州のスーザン・コリンズ議員と、アラスカ州のリサ・マコースキー議員は、いずれも次回の2020年に改選期を迎えますが、民主党から「こっちへ来ないか?」という強烈な「引き」が来ているというのです。

2人とも、10月の「カバナー最高裁判事の承認問題」では、保守票を気にして最後には「賛成」に回ったわけですが、「そんな苦しい判断をするぐらいなら、民主党に鞍替えしたら?」というわけです。このうち、メーン州については、コリンズ議員に対する民主党の「刺客」としてオバマ政権の国連大使・安全保障補佐官であったスーザン・ライス氏が名乗りを上げており、コリンズ議員には猛烈なプレッシャーがかかった感じになっています。

いずれにしても、50/50という事態になれば、当面はペンス副大統領の一票で共和党は上院を支配できるものの、2年間には様々な動きがありそうです。仮に51/49でも2年間には何が起きるか分かりません。弾劾問題を含む議会対策は困難が予想されます。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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