コラム

自動運転技術が「ブラックボックス」になれば、標準インフラにはなれない

2018年07月12日(木)15時20分

といった問題があるわけです。ですから自動運転の開発は、制度インフラの整備について、国際的な合意形成をするために、オープンな議論が必要な時期に入っていると考えるべきでしょう。

今回の情報持ち出し事件に関しては被害者かもしれませんが、自動運転に関するアップルの秘密主義は少々異様です。他社ではあり得ないような「高額なレーダー照射センサー(ライダー)」を山のように(カメラ、レーダーと合わせて前方だけで14基程度)搭載した試験車を走らせてみたり、専任の技術者が5000人いるという報道もあります。

アップルにめぐっては、周辺環境をライダー、レーダー、カメラで情報収集して、その結果を「センサー・フュージョン」という技術で統合する処理を開発中という噂もあります。あるいは高精細マップで先行しようとしているなど、相当規模の投資をしているようですが、その内容については断片的な動きしか伝わってきません。

もしかすると、このまま秘密裏に開発を進め、ライバルに圧倒的な差をつけた時点で、「自動運転許可のお墨付き」を交付してもらい、一気に既存の自動車メーカーを「ハードウェアの供給ベンダー」にしてしまう、そんな構想を描いているのかもしれません。彼らがスマホの市場制覇の際に取った戦略に従えばそうなります。

ですが、他のテクノロジーと違って、ブラックボックスに命を預ける人間はいないのです。と言いますか、各国の交通行政は一社先行型の状態では、認可はしないと思います。競争がなければ、どこかで安全性に問題が出る可能性もあるし、そもそも一社が基幹技術を独占するような中では、「命に関わる技術を一社に握られる」ことになり、それは各国の監督官庁も、世論も簡単には認めないと思います。

同じことは、ウーバー/トヨタ連合にも、ウェイモ(グーグル)にも言えます。一般のドライバーや歩行者には理解できない「技術のブラックボックス」を作ってしまっては、折角の自動運転技術への社会的認知が得られず失敗に終わる危険もある――そのぐらいの危機感を持って透明性を高めていくことが求めると考えます。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザ停戦が発効、人質名簿巡る混乱で遅延 15カ月に

ワールド

韓国尹大統領に逮捕状発付、現職初 支持者らが裁判所

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性客が「気味が悪い」...男性の反撃に「完璧な対処」の声
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明らかに【最新研究】
  • 4
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 8
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 9
    注目を集めた「ロサンゼルス山火事」映像...空に広が…
  • 10
    身元特定を避け「顔の近くに手榴弾を...」北朝鮮兵士…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 4
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 5
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 6
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 7
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 10
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story