コラム

アメフト悪質タックル事件を、アメリカから考えると

2018年05月17日(木)16時20分

アメリカでも一線を越えた悪質なラフプレーをすれば選手は将来を絶たれる(画像はコラム内容とは直接関連していません) Winslow Townson-USA TODAY Sports/REUTERS

<アメリカのNFLでもラフプレーは問題視されているが、今回のように露骨にやることはあり得ない>

問題の日大選手のタックルについては、何度もビデオで確認したのですが、アメリカでプロや大学、高校の試合を見てきた自分としては、全く見たことのないプレーだと感じました。悪質といえばもちろん悪質なのですが、行為として危険だという意味の悪質性に加えて、あんな風に露骨にやるというのが非常に不思議です。

あくまで推測ですが、ラフプレーを命じられてやったというだけでなく、「確かに自分は堂々とやった」というアピールをしなくてはならない、タックルを行った選手はそのような圧力を受けていた可能性が感じられます。とにかく、あのプレーの後もラフなプレーを2回繰り返して退場になるまでやったというのは、そうでもない限り説明がつきません。

もう一つ不思議なのは、仮に「命じられて」やったのであり、チームなり監督なりに対して「露骨にやったというアピール」をしなくてはならなかったとして、タックルをした側の選手は猛烈なコストを払わされる可能性があるわけです。永久追放とか、その後の就活における困難など、人生を狂わされるほどのコストです。それにも関わらず、仮に命令があって拒否できない、そのくらいの心理的な圧迫があったのだとしたら、それはカルチャーとして異常だと思います。

では本場のアメリカでは100%クリーンにプレーされているかというと、決してそんなことはありません。アメリカンフットボールというのは、巨体と巨体が衝突する肉弾戦であり、危険とは隣り合わせです。高校レベルから大学、プロと、どのレベルでもケガは付き物で、決して良いことではないのですが、その危険性もある程度は許容されてしまっています。

2000年代以降は、その中で特に脳しんとう(コンカッション)の問題がクローズアップされています。多くの引退したNFL(プロリーグ)の元選手を調べたところ、かなり高い率で脳の損傷が見つかったこともあり、ルール改正を含めてリーグ全体が、安全確保に取り組んでいるところです。

この「脳しんとう防止」という運動と同時に、例えばプロの場合ですと、ニューオーリンズ・セインツというチームで、チームぐるみで「相手選手を傷つけるようなラフなプレー」を命じていたという問題がありました。今回の日大の事件との比較という意味で、少し詳しく紹介したいと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

不確実性の「劇的な高まり」悪化も=シュナーベルEC

ワールド

マスク氏、米欧関税「ゼロ望む」 移動の自由拡大も助

ワールド

米上院、トランプ減税実現へ前進 予算概要可決

ビジネス

英ジャガー、米国輸出を一時停止 関税対応検討
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    ひとりで海にいた犬...首輪に書かれた「ひと言」に世界が感動
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 9
    5万年以上も前の人類最古の「物語の絵」...何が描か…
  • 10
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story