コラム

米政界に衝撃、ライアン下院議長は中間選挙になぜ「出馬しない」?

2018年04月12日(木)15時00分

ライアン下院議長は中間選挙で再選を目指さない意思を明らかにした Aaron P. Bernstein-REUTERS

<秋の中間選挙での共和党の敗北、その後のトランプ弾劾のプロセスを見据えたか、それとも2020年大統領選への布石なのか>

アメリカ連邦下院議長は、議会の最高権力者であるばかりか、正副大統領が欠けた場合には、合衆国憲法によって自動的に大統領職を継承する地位でもあります。現任のポール・ライアン議長は、48歳という若さで既に2015年以来3年近く、この要職にありますし、その直前の2012年にはミット・ロムニー候補が現職のオバマ大統領に挑んだ大統領選の副大統領候補でもありました。

4月11日、そのライアン議長は11月の中間選挙には下院議員候補として出馬しないと発表、米政界に衝撃が走っています。理由としては「家族との時間を大事にしたい」と説明されています。また、トランプ政権という異常な行政府との調整に疲れたという解説もあります。一方で、日本でも良くあるように落選の危険があるので先手を打ったのかというと、必ずしもそうではないようです。

今回のニュースの政治的な衝撃は計り知れません。そうした気配があったのは事実ですが、実際に発表になってみるとあらためて大きなショックを感じます。

まず、出馬撤回の理由ですが、4つ考えられます。

1つは、ここへ来て共和党による「下院の過半数支配」が揺らいでいることです。今週は、「共和党支持者の中で教育水準の高い高齢男性」が10%も民主党にシフトしたというロイター通信の報道が衝撃を与えましたが、中間選挙の選挙情勢について、現在は与野党ほぼ拮抗というところまできています。

そんな中で、仮に過半数を失うとライアンは政治責任を問われるのは間違いありません。そう考えると「そこまでボロボロになりたくない」ということが強い動機としてあると思います。

2つ目は、仮に民主党が過半数を取るようですと、おそらく自動的に「下院司法委員会」ではトランプ大統領への弾劾裁判の起訴手続きを開始することになると思います。そうなれば、少数与党の共和党は、これに対する防戦を行わなくてはなりません。

ですが、仮にロシア疑惑、下半身疑惑など大統領を取り巻くスキャンダルが現状よりも深刻化している場合には、大統領の擁護は難しくなります。共和党の議会指導者として、大統領を擁護すれば自分の立場が危うくなるし、かといって大統領弾劾に与するわけにもいかない、ここは「逃げるが勝ち」ということです。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏側近、大半の輸入品に20%程度の関税案 

ワールド

米、中国・香港高官に制裁 「国境越えた弾圧」に関与

ビジネス

英インフレ期待上昇を懸念、現時点では安定=グリーン

ビジネス

アングル:トランプ政権による貿易戦争、関係業界の打
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 9
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story