コラム

トランプ政権のシリア情勢への対応は支離滅裂

2018年04月11日(水)11時40分

トランプ政権はシリアへの軍事行動を示唆しているが Carlos Barria-REUTERS

<シリアのアサド政権が化学兵器を使用した疑惑が出ていることに、トランプ政権は軍事攻撃に踏み切る構えも見せているが、これまでの対シリア政策は一貫性がなく支離滅裂>

東グータ地区というのは、シリアの首都ダマスカスの南部にあり、アサド政権に対抗する勢力が支配していました。この地区の鎮圧が時間の問題となるなか、和平交渉が続いていたところでした。その東グータ地区では、現地時間の4月2日ごろから、あらためてアサド政府軍によるものと思われる空爆が再開され、4月7日に化学兵器とみられる空爆で大きな被害が出ている模様です。

使用されたのは希薄化されたサリンという説と、サリンではなく塩素ガスだという説とがありますが、当初49人と言われた犠牲者数が9日には140人という報道もあり、深刻な事態と言わざるを得ません。

この攻撃に続いて今度は9日に、シリア中部のホムス県にある空軍基地にミサイル攻撃があり被害が出たという報道がありました。シリア国営テレビは当初、攻撃は米軍によるものと報じていましたが、アメリカは関与を否定。後にこの基地への攻撃はイスラエルによるものという報道に変わっています。

こうした事態を受けて国連安保理では、まず化学兵器使用に対する抗議と制裁の決議が評決に付されるようですが、これは恐らくロシアが拒否権行使をするだろうと言われています。また、シリア空軍基地への攻撃に関する非難決議も討議されるようで、こちらは西側が拒否に回る公算が大きいようです。

そんな中、トランプ大統領はアサド政権による化学兵器の使用を強く避難し、48時間以内に重大な決定を行うと通告しました。では、アメリカは何かドラスティックなことができるのかというと、実は相当に手詰まりになっているのです。

どうして手詰まりになっているのかというと、シリアに関するトランプ政権の態度は、ころころ変わり、支離滅裂で一貫していないからです。

(1)まず、2015~16年の選挙戦でトランプは、シリアの混乱について、アメリカは直接介入はしない、ロシアのプーチンに処理を任せる、それが自分流の解決方法だと一貫して主張していました。

(2)その一方で、オバマ大統領のシリア問題への対処を批判することも多く、弱腰で無策だという非難を浴びせていました。トランプ大統領はそんなに言及していませんが、オバマのシリア政策について言えば「化学兵器の仕様はレッドライン越え」になると明言しておきながら、2013年に今回と同じ東グータで化学兵器が使用された際には、何もせずに批判を浴びています。トランプ大統領としては、このオバマの前例を意識せざるを得ません。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

カナダ・メキシコ首脳が電話会談、米貿易措置への対抗

ワールド

米政権、軍事装備品の輸出規制緩和を計画=情報筋

ワールド

ゼレンスキー氏、4日に多国間協議 平和維持部隊派遣

ビジネス

米ISM製造業景気指数、3月は50割り込む 関税受
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story